宗教と死生観
人間にとって「死」は普遍的であります。それは国や宗教、思想、信条などにかかわらず誰しもが当てはまります。しかし人が亡くなった後の葬送儀礼は、地域や宗教によって異なります。
例えばイランでは、紀元前12~9世紀頃に中央アジアで生まれた「ゾロアスター教」の影響で、「遺体は悪魔の支配下に置かれて不浄である」という考えがあります。
そのため土葬や火葬を行わず「鳥葬」が行われています。
裸の遺体が置かれると、猛禽(鋭いくちばしと爪を持ち、他の動物を捕食する鳥)に肉や内臓を食い尽くされて、最終的に骨になります。
鳥たちに遺体を与えることは、その人にとっての最後の布施行(欲を手放すこと)とされているそうです。
またインドの約80%の人が信仰し、輪廻転生の教えで有名な「ヒンドゥー教」では、来世に旅立つために死後に何も残しません。全てを浄化する「ガンジス川」へと遺骨や遺灰、遺体を流すのです。
当然お墓もありません。一般的にお墓を持つことが当たり前な日本とは、全く違う考え方ですね。
今回はそのヒンドゥー教について、また基本的な葬儀の流れや葬送方法を解説していきます。
ヒンドゥー教とは~歴史と教え
ヒンドゥー教とは「開祖をもたないインド発祥の民族宗教」です。
インドの地に自然に生まれたものとされています。
紀元前1500年頃、世界四大文明の中のひとつで、インダス川流域を中心に栄えた古代インドの文明である「インダス文明」が終わりを迎えようとしていました。
そしてヨーロッパからイラン経由で「アーリア人」と呼ばれる民族が移民してきて、ヒンドゥー教の前身となる「バラモン教」が生まれました。
アーリア人は、「火・風・雷・太陽」といった自然と、その自然の絶大なエネルギーを神格化して崇拝するようになり、これがバラモン教の起源でもあります。
またアーリア人は「カースト制度」を持ち込んだと言われています。
一説によると、先住民を征服する過程で「肌の色で差別した」とされています。
カースト制度として、以下の4つの身分(ヴァルナ)があります。
1.バラモン(司祭)
2.クシャトリア(王や士族)
3.ヴァイシャ(庶民)
4.シュードラ(奴隷)
5.ダリット(不可触民)
バラモンは、カーストの頂点です。シュードラの下にはダリットという身分がありますが、ダリットは他の身分の人が近付いてはいけない存在であり、実際にはカーストとして数えられていません。
そんなバラモンの教えやカースト制度の原点である「ヴェーダ」がヒンドゥー教の教えとして受け継がれました。
教えには梵(宇宙の本質)と我(自分自身)は同じであるという「梵我一如(ぼんがいちにょ)」や「輪廻転生」の思想があります。
要するに宇宙の本質を見抜いて、苦難によって魂が磨かれ、より高く進化するために何度も生まれ変わる輪廻転生からの「解脱」を目指す宗教ということです。
ここでの解脱とは「人生という思い込みから抜けた時には安らぎが待っている」ということです。
個人的な視点になってしまいますが、輪廻転生は無常の現象であると感じてます。先に述べた宇宙の本質である梵を「宇宙全体に広がっている意識」とします。
その意識は輪廻転生という無常の現象を超えて存在しているのではないでしょうか。
永遠に存在している意識が、肉体を持ったり失ったりするという無常の現象を体験していて、その意識は生まれることも死ぬこともなく、永遠に存在しているのだと思います。
またヒンドゥー教は、自分が信じる神を崇める多神教であり、「宇宙を創造したブラフマー」「宇宙を維持するヴィシュヌ」「破壊の神シヴァ」が三大神とされています。
ヒンドゥー教では牛は神聖なものとされていて、人々は基本的に食べません。また五葷(ごくん)というニンニク、ニラ、玉ねぎ、らっきょう、アサツキも禁じられています。
飲酒は宗教上禁じられているということもあり、目上の人や親族の前では飲まない慣習があります。また左手は不浄の手とされ、握手や食事は右手で行うのが基本だそうです。
ヒンドゥー教の葬儀と葬送方法
・ヒンドゥー教の葬儀
ヒンドゥー教徒にとっての葬儀は、とても大切なものとされています。
比較的生活に余裕がある家庭では、死期が近づいてきた頃に、ヒンドゥー教の僧侶であるバラモン僧を招いて、生前の罪滅ぼしの儀式を行います。
そしてヒンドゥー教では、人が亡くなった際には遺体を火葬します。
火葬をする前には、家族がマントラを唱える中で、遺体に聖なる水とされるガンジス川の水をかけて清めます。
また一般的に亡くなってから1~2日ほどの短い期間に火葬されます。インドは暑い国なので、遺体の腐敗を防ぐためにできるだけ早く火葬するようです。
火葬が終わると、遺族は10〜20日間の「シュラッダ」と呼ばれている祖霊祭を行います。これは先祖に敬意を表すために行われるヒンドゥ-教の儀式で、「祖先に感謝を捧げる期間」とされています。
シュラッダ期間中に、喪主が頭に布を巻くという儀式や、親族や友人を食事に招待することがあります。しかしこの期間中、遺族は家から出ることができません 。そのため会社もお休みを取ることになるそうです。
また葬儀に際して、長男は頭を丸刈りにします。丸刈りといっても、すべての髪を落とすわけではなく 後頭部にだけ少し髪を残します。この独特な髪型を見れば、親を亡くしたばかりの人だとすぐにわかってしまいますね。
・ヒンドゥー教の葬送方法
ヒンドゥー教徒にとっての最大の喜びは、「ガンジス川に自分の遺灰を流すこと」だと言います。ガンジス川の水で沐浴すれば罪が清められ、この川に遺灰を流せば魂は天に赴くと信仰されているのです。
ガンジス川のほとりにはたくさんの火葬場があります。そこでは毎日のように遺体が焼かれています。そして火葬はオープンスペースで行われるため、遺体が焼けていく様子を誰でも見ることができます。組み立てられた薪の上に遺体を乗せ枯れ葉やワラを被せます。その上に薪を乗せて長男が火をつけます。
また火葬の際に使われる薪の量によっては、遺骨が残ることがあります。これは、貧困のため十分な薪が買えないことによって起こります。その場合は焼け残った肉体も、そのまま川に流されるそうです。
遺骨や遺灰は最終的にすべて川に流されます。多くの遺骨や遺灰が流されていることから、ガンジス川は「聖なる川」と呼ばれています。輪廻転生に基づいた生と死を象徴する川でもありますね。
またヒンドゥー教は火葬をして遺骨や遺灰を川に流すことが基本ですが、以下の人たちの遺体は、そのまま川に流すという「水葬」という方法が取られることもあります。
・火葬費用を捻出できない人
・子供
・未婚の女子
・妊婦
・感染症患者
・事故死
・ヘビに噛まれて亡くなった人
これらの遺体は、布に包んで足に重りをつけて川に投げ込まれます。
しかし近年では、水葬の習慣はインドにおける生活排水や工場排水などの、水質汚染に繋がると問題となっています。政府は、インドの主要な河川の水質浄化への取り組みを始めています。文化がなくなってしまう前に、解決する手段が見つかることを祈ります。
日本における水葬と散骨
インドのように、遺体を川に沈める水葬は、今の日本人にとっては馴染みのない葬法と言えるでしょう。
「水葬で故人を送りたい」と考える人もいると思いますが、日本では水葬は違法となるためできません。故人の希望であっても不可能です。水葬を行ってしまうと刑法190条である「死体遺棄罪」に該当し、法律違反になってしまいます。
ただし例外があります。
航行中に乗組員や乗客などが亡くなった場合には、【船員法】に基づき、船長の権限において水葬が行えるのです。
「死後24時間経過している」「遺体の保存ができない」「遺体が浮き上がらない処置をする」などの、さまざまな条件が決められています。
日本では遺体をそのまま川に流す水葬は違法になってしまいますが、火葬後の遺灰を海へ還す「海洋散骨」をすることができます。
また日本だけではなく、弊社が散骨を行っている「海外リゾート散骨」のエリアである、フィリピンやフィンランド、オーストラリアの海も可能です。
・フィリピン散骨:【https://sea-forest-ceremony.com/philippines】
・フィンランド散骨:【https://sea-forest-ceremony.com/finland】
・オーストラリア散骨:【https://sea-forest-ceremony.com/australia】
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ガンジス川が「聖なる川」とされているように、フィリピン、フィンランド、オーストラリアが、自分にとって、また故人にとっても「聖なる場所」になるかもしれませんね。