「フィリピンで散骨はできない」という情報、本当のところは?
弊社「海と森のセレモニー」では、フィリピンのマニラやセブなど、美しい海での散骨をサポートしています。
一方で、インターネットで「フィリピン 散骨」と検索すると、「フィリピンでは散骨は法律で禁止されている」「海や私有地への散骨はできない」といった情報を目にすることがあります。実際に、お客様から「フィリピンで散骨はできないと聞いたのですが、本当に大丈夫なのでしょうか?」というご質問をいただくことも少なくありません。
結論から先にお伝えすると、弊社の調査では、フィリピンにおいて火葬後のご遺骨を海に散骨することを明確に禁止する法律は確認されていません。それどころか、近年の法規則の改正では、海への散骨が埋葬方法のひとつとして明文化されています。
その上で弊社は、「現地の文化を理解し、節度をもって行う範囲であれば問題にならない」と判断し、散骨のサポートを行っています。
では、なぜ「散骨できない」という情報が広まっているのでしょうか。この記事では、弊社が実際に業務の一環として行っている法律・文化面の調査の過程をご紹介しながら、その理由を紐解いていきます。
本記事は法的助言を目的としたものではなく、弊社の散骨に関わる各種調査の内容とその過程を知っていただくための記事です。
結論:法律で明確に禁止されてはいない~2021年に「海への散骨」が明文化~
フィリピンで遺体・遺骨の取り扱いを定める基本となる法律は、1975年に制定された大統領令第856号「フィリピン衛生法典(Code on Sanitation of the Philippines)」です。その第21章(Chapter XXI)が「死亡者の処理(Disposal of Dead Persons)」にあたり、埋葬や火葬に関するルールを定めています。
注目すべきは、この法律の施行規則における「埋葬(Burial)」の定義の変遷です。
実は1996年の施行規則の時点で、すでに「埋葬」は「墓穴、墓、または海への遺体の埋葬」と定義されており、「海」が埋葬先のひとつとして挙げられていました。その後2010年の改訂で一度「海」の文言が消え、扱いがややグレーな時期が続きましたが、2021年11月、フィリピン保健省(DOH)が発出した行政命令第2021-0056号による最新の施行規則で、次のように明確化されました。
「埋葬とは、墓穴、ニッチ、墓、納骨堂への遺体の埋葬、火葬後の遺灰(cremains)については海、およびその他承認された最終処分場所への埋葬を指す」(弊社訳)
つまり、火葬後のご遺骨を海に還すことは、フィリピンの現行の法規則において、埋葬方法のひとつとして正式に位置づけられているのです。「法律で一律に禁止されている」という言説は、少なくとも2026年7月現在の法制度に照らせば、正確ではないと考えられます。
なお、環境関連の法律(フィリピン水質浄化法や大気浄化法など)についても調査を行いましたが、火葬後の遺灰の海洋散布そのものを禁止する条文は確認されていません。
なぜ「散骨できない」と言われるのか~よくある3つの混同~
法律で禁止されていないにもかかわらず、「フィリピンで散骨はできない」という情報が流れているのはなぜでしょうか。
弊社が調査した限り、「散骨は違法」と主張する情報の中で、具体的な法律名や条文を示しているものは見当たりませんでした。その上で、こうした言説が生まれる背景には、大きく3つの「混同」があると推測しています。
①「海葬」との混同
散骨とよく混同されるのが、火葬をせずにご遺体をそのまま海に流す「海葬(水葬)」です。フィリピンでは、ご遺体の埋葬には死亡証明書や埋葬許可が必要で、埋葬場所も法律で厳しく管理されているため、ご遺体をそのまま海に流すことは基本的に認められません。しかしこれは、火葬後のご遺骨を海に還す「散骨」とはまったく別の話です。「海に還す=違法」という情報は、この2つを混同している可能性があります。
② 散骨がグレーだった時代の古い情報
先ほどご紹介したとおり、フィリピンで海への散骨が法規則上明確になったのは2021年と、実はごく最近のことです。それ以前の「扱いが曖昧だった時代」の情報が、更新されないままインターネット上に残っているケースは少なくありません。また、特に老舗の冠婚葬祭業者などでは、「今までそういう実務を扱ってこなかった」という経験則と、「法律で禁止されている」という話が混ざってしまっている可能性も考えられます。
③ カトリック教会の方針と法律の混同
フィリピンの人口の約8割はカトリック教徒といわれています。そしてカトリック教会は、2020年にフィリピンカトリック司教協議会(CBCP)が公式に「遺灰は散骨せず、納骨堂などの神聖な場所に安置すべき」との方針を示しています。これは2016年にバチカンが示した見解(火葬は認めるが、遺灰の散布や自宅保管は認めない)に沿ったものです。
ただし、これはあくまで宗教上の方針であり、フィリピンの法律ではありません。「教会が認めていない」ことと「法律で禁止されている」ことが混同され、「フィリピンでは散骨できない」という情報につながっているケースがあると考えられます。
とはいえ、この教会の方針は、文化的な側面としては決して軽視できない重要なポイントです。次の章で詳しくお話しします。
法律と同じくらい大切なこと~カトリック文化との向き合い方~
法律や条例で禁止されていないからといって、何をしてもよいわけではありません。散骨は、その土地の文化や人々の感情の中で行われるものだからです。これは日本国内の散骨でも、海外での散骨でも変わらない、弊社が最も大切にしている考え方です。
フィリピンを訪れると、カトリック文化の存在感を肌で感じます。教会は街のあちこちにあり、ミサの時間には多くの人で賑わいます。肌の露出が多い服装では入場できない厳格な教会施設もあるほどです(そのすぐそばで肌を隠すためのストールを売る出店があったりして、なんとも商魂たくましいなと感心してしまうのですが……)。
一方で、これは特に日本人には感覚的に理解しにくいところかもしれませんが、信仰の深さには人によってかなりの濃淡があります。敬虔な信者もいれば、なんとなく習慣として教会に通っている人も、等しくカトリック教徒です。たとえば婚前交渉を控えることも教会の方針ですが、今日これを固く守っている信者は少ないといわれています。教会の方針が根付いていることと、すべての信者がそれを厳格に守るべきと考えていることは、必ずしもイコールではないのです。
また、一般的な傾向として、信仰の深さと都市化には相関があり、マニラなどの都市部や人の往来が多い観光地では、宗教的な規範は比較的緩やかになる傾向があります。
弊社では、こうした背景を踏まえて現地調査を幾度となく重ねてきました。その結果として、マニラやセブといった地域では、節度をもって行う限り、散骨は文化的にも許容されるものと判断しています。
地域によって判断は変わる~マニラ・セブと、お断りしているサガダ~
逆に言えば、文化的な観点から「この地域では散骨の実施は難しい」と判断し、お断りしているエリアも多くあります。
その代表例が、ルソン島北部のサガダ地方です。マニラからバスで5時間ほどの山あいにあるサガダは、棺を崖に吊るす「ハンギング・コフィン」で知られる、独自の葬送文化が今も息づく土地です。その神秘的な景観から散骨のご相談をいただくことも多いのですが、弊社ではサガダでの散骨はお断りしています。土着の文化の根強さや宗教的な儀礼を考えると、外から散骨という新しい葬送のかたちを持ち込むことは、現地の方々に受け入れられにくいと判断したためです。
関連記事:【フィリピン・サガダの「ハンギング・コフィン」とは?~自然と調和する伝統的な葬送文化~】
「法律で許されているか」だけでなく、「その土地の人々に受け入れられるか」。この両方の視点で調査を重ね、散骨の実施・サポートの可否をエリアごとに慎重に判断する。これが、海外での散骨をお手伝いする者としての弊社の姿勢です。
フィリピンでの散骨に限らず、海外散骨について気になることがあれば、どのような些細なことでも、お気軽にお問い合わせください。





