終活のひとつである生前葬
「生前葬」という言葉を聞いたことはありませんか。
生前葬とは「自分が生きてる間に自分のお葬式をしてしまおう」という、近年関心が高まっている「終活」のひとつです。
「生きているのにお葬式?」と思うでしょう。
一般的にお葬式というと、亡くなった人のお別れやお見送りという、故人を弔うための儀式です。そして当たり前ですが、自分ではどんなお葬式になったのかを見ることはできません。
しかし生前葬では自分で喪主を勤めることができ、自分が思うかたちで、自分のお葬式を行うことができるのです。
今回はその生前葬について解説していきます。
生前葬とは
生前葬とは、自分が生きている間に行うお葬式のことです。
生前葬の目的は、「お世話になった人へと感謝の気持ち」や「お別れのメッセージ」を直接伝えることです。
生前葬では、一般的な葬儀のように宗教的なことは含まれず、立食パーティやカラオケなど、式の内容を自分の好きなように決めることができます。
生前葬を行う理由は人によって様々で、「元気なうちに感謝の気持ちを伝えたい」「生きている間に親族たちと集まりたい」「残りの人生の最期の幕開けを迎えるにあたってお祝いの会を開きたい」などがあります。
生前葬の準備と流れ
生前葬を行う準備として、主に以下のようなことがあります。
・家族の理解を得る
・生前葬を取り扱っている業者に相談する
・業者に見積もりを取る
・生前葬を行う会場を決める
・招待客を決める
・招待状を送る
・生前葬の内容を考える
式の内容によっては会食の準備、スピーチの依頼や余興の準備などの必要があります。自分がどのような生前葬を行いたいかをイメージして準備しましょう。
また生前葬の大まかな流れとしては以下の通りです。
1.開会の言葉、本人の挨拶
2.自分の人生を辿った映像を流す
3.参加者の代表スピーチ
4.会食
5.余興
6.閉会の言葉
この流れに加え、オリジナリティ溢れた演目も追加することができます。
生前葬にかかる費用
どのような内容で生前葬を行うかによって費用は変化します。
例えば、参加者10名、小規模な会場、会食有りの場合で約30~40万円が相場となっている場合が多いです。招待人数や会場の規模、会食や御礼品の内容によっては、200万円以上かかることもあるそうです。
生前葬のメリット
・自分で内容を考えられる
一般的な葬儀とは違い、生前葬には決まりがありません。自分で葬儀の内容を自由に決められます。
・楽しい雰囲気で行うことができる
葬儀というと悲しいイメージを抱く方が多いと思いますが、生前葬ではたくさんの笑いが起きることもあります。「自分の葬儀は悲しまずにみんなで笑って見送ってほしい」という希望がある人にはオススメです。
・家族や親族の負担が減る
生前葬を行った場合、実際に亡くなった後の葬儀は簡素化することが多いため、葬儀にかかる経済的・事務的負担を減らすことができます。生前葬自体は、準備や費用の支払いを自身で行う場合が多いので、家族に大きな負担をかけることは少ないとされています。
生前葬のデメリット
・費用がかさむ
生前葬を行ったからといって、亡くなった時に何もやらないわけにはいけません。少なくとも遺体を火葬する必要があります。また家族が葬儀を行うこともあるでしょう。その場合は費用や手間がかかってしまうこともあります。
・参加者を集めるのが難しい
声を掛けても参加してくれるかどうかわかりません。招待したとしても冗談として捉えられる可能性があります。「楽しい葬儀だなんて無礼」「生きている間に自分の葬儀を行うなんて縁起が悪い」などと思われてしまうこともあるでしょう。
生前葬を行った有名人
・水の江瀧子さん
「ターキー」の愛称で親しまれていた水の江瀧子さんは、生前葬の先駆者です。
生前葬は、森繁久彌さんが葬儀委員長を、永六輔さんが司会を務めるなど、豪華なメンバーによって盛大に行われました。楽しく明るい雰囲気の中、笑いと共に彼女の人生が讃えられました。
・養老孟司さん
葬儀をせず火葬だけで済ます直葬と家族葬が全国的に6割を超えたことで、新しい葬儀のかたちを探していた曹洞宗のお坊さんの会が、養老孟司さんに生前葬を行うことを勧めてきたそうです。
「ホトケがいないと会にも気合いが入らないから、あんたやってくれ」と言われ、断る理由もないことから引き受けたとのことです。その際に「戒名もいただき、自分の葬儀についても考えることがなくなった」と言っています。
・元コマツ社長の安崎暁さん
建設・鉱山機械や産業機械などの事業を展開している「コマツ」の社長を務めた安崎暁さんが、生前葬を行ったとして話題になりました。
安崎さんは80歳で末期がんと診断された後、「感謝の会」として生前葬を企画し、「元気なうちに感謝の気持ちをお伝えしたい」と新聞の広告で生前葬を告知しました。
「残された時間を充実させたい」と、都内のホテルで開かれた感謝の会には、コマツの関係者や知人、母校である一橋大学関係者など約1000人が集まりました。
また「終活の過ごし方は個人個人で異なる。私自身の好みという形でやらせていただいた」と感謝の会の後の会見で言われました。
・ビートたけしさん
62歳の時に生前葬を行っています。
生前葬でビートたけしさんは「人の葬式で悪いことしてきたから、俺の(葬式)では飲んで騒いでほしい。死んじゃった後は何と言われようと俺はわかんないし、どうにでもして」と言ったそうです。
他にも赤塚不二夫さん、アントニオ猪木さん、桑田佳祐さんなども生前葬を行いました。
逆修と生前葬の意義
仏教では生きている間に、予め死後の冥福を祈って仏事を行なう「逆修」という供養があります。例えば、養老孟司さんのように生前に戒名をいただいたり、自分の墓石に朱書きで戒名を掘っておいたり(逆修墓)、位牌を作っておくことが挙げられます。
そして、これらのことを死後に行うよりも徳を積めると言われています。
また平安時代から江戸時代あたりまでは、この逆修を行うことは一般的だったのです。
そして逆修とは、今でいう生前葬の一種でもあるかと思います。
昔からある逆修とは反対に、現代の生前葬は一般的ではなく、社会的な認知度もまだ低いのが現状です。
そのため世間には受け入れ難いこともあります。
しかし生前葬は、自分の人生を振り返り、それを確認できるだけではなく、自分の生きた証しにもなります。また自分の死と向き合うことでもあります。
それは「自らの死を意識することで生きる時間が大切になる」ということです。
自分の過去のことを色々と思い返すと、未来の生き方も自ずと変わってくることでしょう。
生前葬をすることで、周りの人に感謝を伝え、自分の人生を祝福し、より良い未来を生きていくことができるかもしれませんね。