動物の死に対する感情と行動
人は死を悼み、大切な人や仲間を亡くした時強い悲しみを抱きます。今まで会えた人ともう会えなくなると考えると、悲しみで押しつぶされそうになります。
そして「人間だけが葬儀をし、埋葬文化を持ち、お墓をつくる」と言われています。
しかし人間以外、死を悼んだり埋葬したり、死者を弔う動物は存在しないのでしょうか。また動物たちは仲間の死をどう捉えているのでしょうか。
人類学教授のバーバラ・J・キング氏の著書【死を悼む動物たち】によると、ネコ、イヌ、ゴリラ、ゾウなどといった動物たちの多くが、仲間の死後「食欲低下」「不眠」「うつ状態」などを発症し衰弱していくとされ、また死んだ仲間を探したり、聞いたこともない声で鳴いてみたり、奇怪な行動もすると言われています。
そして「人間の場合、死を恐れ、死が何かを意味するのはわかっている。死とはなにかを動物が頭で理解しているわけではない。しかしもしかしたら動物の中にも命の終わりを感覚として知るものが存在するかもしれない」とも書かれています。
今回はそのような動物たちの「死」に対する感情や行動について解説します。
ゾウの埋葬行動
先日、学術誌の【Journal of Threatened Taxa】に「アジアゾウは死んだ子ゾウを埋葬している可能性がある」との研究論文が発表されたという記事を見かけました。
以前からゾウは、仲間の死を悲しんでいると思わせる行動を取ることで知られています。
地球上のゾウは「アフリカゾウ」と「アジアゾウ」に分類されますが、アフリカゾウは死んだ仲間のあごの骨を持ち歩き、頭を下げ、鼻を地面に付けたままほぼ動かずに遺体の近くに集まって長時間沈黙することがあります。またアジアゾウは遺体を枝や木、葉などを集めて埋葬するような行動を見せるそうです。
ゾウ研究家であるサンジータ・ポカレル氏は「遺体の周りを飾ったり歩き回ったりする行動は、まさに宗教文化で行われる葬儀を思い出させます」と語っています。そして中にはお墓参りのように遺体があるところを何度も訪れ、しばらく滞在した後、遺体から去っていくゾウもいるそうです。
しかし今回発表された論文では、死んだ子ゾウを灌漑用の溝まで引きずっていき、そこに埋めた事例が報告されています。しかもどの事例でも、子ゾウの脚は地面から突き出し、頭部や鼻、背中は土で覆われていたそうです。
論文によると「ゾウは意図的に場所を選び、夜を待ってから、死んだ子ゾウを人間や肉食動物から離れた孤立した場所に運び、灌漑用の溝を探して埋めたと考えられる」とあります。
そして「子ゾウの死骸の脚が上に向かって伸びるような姿勢になっていることは異例なこと」とも論文の著者たちは語っています。
ただ「脚が土の外に出ていることに関しては、特別な意味はなさそうだ。もし埋めた場所がもっと深かったら、ゾウたちは死骸を脚まで土で覆っただろう」と考えているそうです。
一方で「埋める場面を人間が目撃したわけではない」「ゾウが埋葬を意図的に行ったという十分な証拠がない」「他の地域では報告はない」などという専門家の意見もあり、これからの研究に期待されます。
ゾウも仲間の死を悲しみ、死を仲間と分かち合っているかのように思えます。大切な仲間を想う気持ちは、人間と変わりませんね。
動物が見せる死の悲しみと行動
・ネコ
ネコも仲間の死を悲しむと言われています。食事をしなくなったり、まるで落胆しているかのように周囲に対する関心を失ってしまう猫もいます。仲間を失うことで、性格や行動が変化すると言われています。
現時点で猫の死別に関する大きな研究はないとされていますが【American Society for the Prevention of Cruelty to Animals】による調査では、仲間の死後「食事量の減少」「嗜眠傾向が強まる」「猫とは思えない声で鳴く」となどということが明らかになりました。また調査をした160の家庭において、仲間を失ったすべての猫は6ヵ月以内にいつも通りに戻ったとのことでした。
・ゴリラ
コンゴ民主共和国の【ヴィルンガ国立公園】の監視員によると、ある母親ゴリラの子供が生後2週間で死んでしまい、その後深く悲しむかのように遺体の傍で1週間以上も過ごした事例があったそうです。また逆にある母親ゴリラが死んだ時は、子どもたちが遺体の傍を丸一日離れなかったそうです。ヴィルンガ国立公園の獣医責任者は「心中はわからないが、確かに喪に服すゴリラもいるようだ。あるいは死を受け入れることができないのかもしれない。私たち人間が死を悼むのと同じ感覚で、ゴリラも悲しみと混乱の淵にあったのだと思う」と語っていました。
・チンパンジー
1972年、タンザニアの熱帯雨林に住む母親チンパンジーの死後、その子供のチンパンジーは突然無気力になり、食欲もなくなって、群れから孤立していったことが報告されたそうです。当時、動物行動学者のジェーン・グドール氏は【サンデー・タイムズ】に「母親への深い愛情を抱いていた子供は、母親の死後めったに食事をとらなくなり、3週間程経過するころには体重が3分の2近くまで減少していた」と書かれました。
またの母親の死から1か月後、その子供はやつれたまま死んだそうです。
・イヌ
私たちの一番身近な動物である犬は、飼い主が亡くなった場所から離れなかったり、飼い主が埋葬されたお墓の傍を離れないということもよく聞きますね。
動物の死への感情と人間の共通点
先にもご紹介した人類学教授のバーバラ・J・キング氏による動画【動物は死に対する悲しみを感じるのか?】もご覧になってみてください。
母親シャチの子供が死んだ時、子供の傍から離れようとしなかったり、1,600キロもの距離を子供の遺骸を頭部で運ぶといった異常な行動をとったそうです。母親シャチは悲しかったのか、ただ死に困惑していただけなのか、バーバラ J・キング氏が人間以外の動物に悲しみはあるのか探求している動画になっています。
また彼は「人間の悲しみは本質的な機能の変化、つまり食事、睡眠、社交という通常のパターンからの逸脱によって定義できます。死によってこれらのパターンからの逸脱が引き起こされ、これにより悲しみの網が広がります。この感情は人間に限らず、数十種類の動物が含まれることになるでしょう」と主張しています。
しかし動物とコミュニケーションをとらない限り、真実や本質的なことはわからないと思います。動物の行動を観察することはできますが、本当に悲しくて犬は飼い主が亡くなった場所から離れなかったり、ゾウが埋葬をするのかを知ることは難しいのです。
ただ動物にも感情があり、悲しむ気持ちがあるかどうかを科学的に証明できないだけの話で、動物に悲しみの感情がないとも言い切れません。
人間は自分にとってかけがえのないものを喪失した時、大なり小なりこれまで経験したことのない感情に襲われます。それは動物にとっても同じことなのかもしれませんね。