死者を想う8月
広島に原爆が投下されて、8月6日で79年でした。被爆地の広島では、原爆の犠牲者を追悼すると共に「核兵器が2度と使われてはならない」という想いを、世界に訴える1日が続いていました。
広島市にある平和公園で行われた平和記念式典には、被爆者や遺族の代表や岸田総理大臣の他、109ヶ国の大使を含む約5万人が参列しました。
式典では、この1年に亡くなった人や死亡が確認された人、合わせて5079人の名前が加えられた34万4306人の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められ、午前8時15分に参列者全員が「黙祷」をしました。
広島市の松井市長は、平和宣言で「国際問題を解決するためには拒否すべき武力に頼らざるを得ないという考え方が強まっている」と懸念を示し、市民社会に対して「心をひとつにして行動すれば、核抑止力に依存する為政者に政策転換を促すことができるはずだ」と呼びかけていました。
また、8月9日には長崎でも原爆が投下されました。
長崎県では、原爆が投下された日を「県民祈りの日」と定め、原爆犠牲者の冥福を祈ると共に、恒久平和への誓いを新たにするため、8月9日の午前11時2分に全県民が一斉に1分間の黙祷を捧げることとしています。
また8月15日は終戦の日で、8月は戦争の犠牲者を追悼する日が続きます。そして黙祷を捧げます。
このような戦争以外にも、災害や事件、事故の犠牲者を追悼する際にも行われる「黙祷」ですが、いつ頃始まり、どのように行うべきなのでしょうか。
黙祷の起源
黙祷とは「死者や災害の犠牲者、戦争の犠牲者に対して敬意や追悼の意を示すために、静かに無言で祈ること」です。
黙祷の起源は中国とされていて、1200年前に唐代の詩の中に「潜心黙祷若有応」という記述があり、「黙祷」という表現がみられたようです。
日本では1912年、明治天皇崩御に伴う「大喪の礼」で行われたのが、黙祷の始まりと言われています。明治天皇に関する記録の中に「市民一斉に黙とうし」との記述が残されていたそうです。
その後、黙祷が大きな広がりをみせたのは、関東大震災の死者に対して行われたことがきっかけとされています。
1923年9月1日午前11時58分の関東大震災で亡くなった人たちの冥福を祈るため、翌1924年9月1日に東京で慰霊祭が行われました。その式典の中で午前11時58分から、1分間の黙祷を捧げました。
これ以後、日本では事件や事故、災害の発生日、つまり、犠牲者の命日の同時刻に黙祷をするという習慣が広まったと考えられています。
広島の原爆の日は8月6日午前8時15分、長崎の原爆の日は8月9日午前11時2分の原爆投下時刻に行われ、終戦の日は1945年8月15日正午に昭和天皇の「玉音放送」がラジオで流されたことから、この時間に1分間黙祷をすることとなりました。
なぜ黙祷は1分間なのでしょうか。その理由として、先述した関東大震災の慰霊祭で1分間の黙祷を行ったことから、公式行事の黙祷は慣例的に1分間となったことが挙げられます。
また一説によると、その発生時刻に祈りをやめることがないようにするためもとされています。例えば、8時15分開始の黙祷を1分未満で終えると「祈っていない8時15分」が存在してしまうので、1分間は行うという考え方です。しかし、実際には正確な時間の定めはありません。公式の場以外での黙祷は「1分は長すぎる」という理由で30秒や10秒に簡略化されることもあります。
また黙祷は神仏に祈りを捧げる意味が込められているため、宗教に関係していると思うかもしれません。
しかし宗教に関係なく「世界共通の祈り」であります。亡くなった人に対する祈りは宗教を超え、無言で心の中で祈りを捧げることに違いはありません。ただ、信仰している宗教によって祈り方のかたちの違いはあります。
黙祷の作法
黙祷では、一般的には目を瞑り、1分間無言で祈りを捧げます。
そして少し頭をたれて身体を動かすことを止めます。雑念を取り払い、心穏やかに式典を迎えるための準備をします。
また式典といった大勢で黙祷を行う際は、アナウンスに従うことが大切と言われています。そこでは、起立を呼び掛けられる場合がありますが、起立は「礼を正す」という意味合いがあります。
そして黙祷の仕方に厳格な決まりはありませんが、周りと違う行動をすると「黙祷を拒否した」と思われる可能性があります。「多くの人が同じように祈ることが重要」と考える人には不快に思われる場合もあるので注意しましょう。大切なのは、周りに不快感を与えずに祈りを捧げることです。
そして黙祷を行う際は「声を出さないこと」「体を動かさないこと」が最低限のマナーです。これは声や体を動かすことで音を立てることを避け、静かに祈りを捧げるためです。
また、黙祷を行う時間に気を付けることも大切です。終戦の日での黙祷時間は「全国戦没者追悼式」の中で行われる黙祷に合わせ、正午から1分間行います。
黙祷は「無言で静止した状態で祈る」ことです。これ以上の厳格な決まりはなく、基本的には神仏に対して祈るので、信仰している宗教によって「合掌をする」「目を瞑る」「お辞儀をする」「膝をついて祈る」こともあります。しかしかたちが違うだけで、祈りの心は同じことでしょう。
心から祈る黙祷
黙祷とは「無言で祈りを捧げること」。
そして黙祷と同時に目を閉じたり手を合わせたりすることは、祈りの意味や表現する為に自然的に起きるものです。そのため必ず目を閉じる必要もありません。
何より大切なのは、心から祈りを捧げることです。
私たち日本人にとって、戦争が終わった8月は特別な月です。6日と9日は原爆死没者を悼む日、15日の終戦の日は、戦争で犠牲となった多くの日本人に強く想いを馳せる日でもあります。これからの平和を祈ると共に、歴史を振り返り、私たちが命を受け継いでいることに感謝して祈りを捧げてみてはいかがでしょうか。
そして黙祷とは「自分を見つめ直す時間」「自分の心を整理する時間」でもあるのです。亡くなった大切な人に想いを伝えたり、心で話すことです。
そこに姿はなくても、黙祷をすることで、どこかで聞いてくれていることでしょう。