フランスで安楽死が法制化~尊厳死と死の援助は認められるか?~

執筆者:Tomo

フランスで安楽死が法制化~尊厳死と死の援助は認められるか?~

目次

フランスで安楽死法案可決~死の援助とは

2025年5月、フランス国民議会(下院)で「死の援助(aide à mourir)」いわゆる「安楽死の法制化」に関する法案が可決され、国内外に大きな波紋を広げました。

「死の援助」とは、重い病気で回復の見込みがなく、強い苦痛を抱える患者が、自らの希望に基づき、医師のサポートを受けて命を終える手続きのことです。

この法案が国民の注目を集めた背景には、ある末期がん患者の言葉がありました。

「これ以上、がんばって生きろとは言わないでほしい。私は、静かに、穏やかに、この苦しみを終えたいだけ。」

この公開されたメッセージはSNSを通じてすぐに広まり、多くの人が「死を選ぶ自由」や「尊厳ある最期」について深く考えさせられたのです。

フランスではこれまで、医師による自殺幇助や致死薬の投与が禁止されており、医療が進んでも、つらい苦しみに悩む患者は多く残されていました。

このような状況を前にして、「死をどう捉えるか」を見つめ直す必要が出てきたのかもしれません。

誰が「死の援助」を受けられるのか?~フランス安楽死法案の条件と手続き

今回フランスで可決された法案では、「死の援助」を受けられる人の対象はごく限られていて、そのための条件もいくつか定められています。

・対象は18歳以上のフランス国民またはフランスに合法的に居住している人
一時的な滞在や観光で訪れている人は含まれず、フランスで生活している人が対象となります。

・末期段階または不可逆的な重篤な病を患っていること
病気が治る見込みはなく、命に関わるような状態であることが前提です。

・身体的または精神的な耐え難い苦痛が継続していること
通常の緩和ケアでは対応しきれない苦しみがあると診断された場合に限られます。

・本人の明確な意思表示があること
無理やり決めさせられたのではなく、自分で納得して選んだかどうかを、医療者側が繰り返し確認します。

・医療者による評価と2日間の熟慮期間を経たうえでの最終決定
焦って判断することがないよう、猶予期間があり、そのあとで本人の意思を確認したうえで薬が処方されます。

薬は、できるだけ本人の手で飲むのが基本ですが、体が動かせないなどの理由で難しい場合は、医師や看護師が代わりに投与することもできます。

この法案には、「命の終わりをどう迎えるかは、誰が決めるべきなのか」という大きな問いが込められています。死というものを国の制度として認めるには、社会全体で考え、理解しようとする姿勢が求められているのでしょう。

薬箱と薬のイメージ

賛否が分かれる安楽死をめぐる社会の声

この法案をめぐっては、フランス社会でも多くの議論が起こりました。

賛成する人たちは、「最期をどう迎えるかを自分で決められることこそが、人間の尊厳だ」と考えています。人生の終わり方を自分で選ぶ自由は、民主主義の基本でもあり、苦しみながら無理に生き続けるような状況は避けるべきだという声もあります。

医療の現場からも、前向きな意見が出ています。
終末期の医療では、どんなに手を尽くしても痛みや苦痛を完全に取り除けないケースがあるため、患者の意思を大切にする仕組みが必要だと感じている人が多いようです。

一方で、反対の意見もあります。
たとえばカトリック教会などの宗教団体は、「命は神から与えられたもので、人間がその終わりを決めることは許されない」と強く反発しています。

また、障がい者団体や高齢者を支える人たちからは、「安楽死という制度があることで、自分が生きているだけで迷惑だと感じてしまう人が出るのではないか」といった不安の声も上がっています。

医療従事者の中にも、命を守る立場でありながら、死を手助けすることに葛藤を抱えている人がいます。

どこまでが本人の意思で、どこからが社会の空気によるものなのか。
誰の声に耳を傾け、どこまで理解し合えるのか。
私たち全体に、あらためて問われている課題です。

命の選択と尊厳死の未来

フランスで今回可決された安楽死法案は、単なる制度の話ではなく、「人はどう生き、どんなふうに人生を終えるのか」を考えるきっかけにもなっています。

法案はこれから上院での審議を経て、正式に成立するかどうかが決まります。もし成立すれば、フランスはヨーロッパの中でも、尊厳死を認めた国のひとつとして大きな一歩を踏み出すことになります。

こうした話題は、決してフランスだけのことではありません。日本でも、高齢化や介護の負担、最期の過ごし方など、同じような悩みを抱える人が増えています。終末期の医療や、本人の意思をどう尊重するかといった問題は、すでに私たちの身近な課題になりつつあるのです。

命をどう生きて、どう終えるか。その答えは人によって違い、ひとつに決めることもできません。
だからこそ、自分とは違う誰かの苦しみや選択にも、できるだけ目を向けることが大切だと思います。

「生きていてよかった」と感じられる時間を、誰もが持てるような社会であることを願っています。フランスのこの決断は、そのために何ができるかを考えるきっかけになるのではないでしょうか。

まとめまとめ

1.フランスで安楽死を認める法案が可決された

2.安楽死法案では、末期の重病で耐え難い苦痛を抱える18歳以上の居住者が、本人の明確な意思と医師の判断を経て安楽死を選べるようになる

3.安楽死法案には、尊厳や自由を重視する声と、倫理や制度への懸念の声がある

4.フランスの安楽死法案は、生と死の在り方を見つめ直すきっかけとなる

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