墓じまいが当たり前の時代に
最近、「墓じまい」という言葉を目にしたり、耳にしたりする機会が増えてきました。
お墓を片づけ、遺骨を別の場所に移すという墓じまいは、かつては珍しいものとされていました。しかし今では、都心で暮らす人や子どものいない家庭、実家を離れて暮らす家族にとって、ごく現実的な選択肢になっています。
あるお寺では、年間に数十件もの墓じまいの相談があるといいます。その多くは「遠方にある実家のお墓の管理が難しい」「後継ぎがいない」「経済的な負担が大きい」といった、家族ごとの事情が背景にあります。
特に地方にあるお墓は、都市で暮らす子や孫たちにとって「なかなか通えない」「維持が難しい」と感じられることも少なくありません。そのため、先祖代々のお墓を閉じて、より管理しやすい永代供養墓や納骨堂、あるいは自然に還ることを望んで散骨を選ぶ人も増えています。
生前墓が人気に?~自分で選ぶ時代の墓づくり
ところが、こうした「墓じまい」の流れとは対照的に、「自分のお墓を建てたい」と考える人、いわば「自分らしい墓づくり」を望む人の姿も見られるようになっています。
都市部の霊園では、生前に自分のためのお墓を用意する「生前墓」の申し込みが目立ち始めているそうです。
以前は「生前にお墓を建てるなんて縁起でもない」といった声も強くありましたが、最近ではその見方にも変化が生まれています。高齢化が進み、「自分の死後のことを考えるのは、ごく自然なこと」という意識が広がるなかで、元気なうちにお墓を準備しておこうと考える人が増えているのです。生前墓は、死後の準備というだけでなく、自分らしい最期を自分の手で整えたいという前向きな意思でもあります。
また、現代の多様な価値観やライフスタイルを反映して、お墓のかたちも少しずつ変わってきています。たとえば、夫婦ふたり用のコンパクトなお墓や、宗教色を抑えたシンプルなデザイン墓、その人の趣味や人生観をかたちにしたモニュメント風のお墓など、これまでの「先祖代々のお墓」とは違う、より個人の想いを大切にした自由なかたちを選ぶ人も増えているようです。
もともとは「家のために受け継ぐもの」とされてきたお墓ですが、今では「亡くなったあと家族に負担をかけたくない」「最期まで自分らしくありたい」といった思いから、自分自身のために準備する人もいます。
お墓は「家の象徴」から「自分の人生を映す場所」へと、その意味合いを少しずつ変えているのかもしれません。
墓石に刻むのは家名より想い
今では、お墓はただ供養をするだけの場所ではなく、その人らしさや生き方が感じられる場所になりつつあります。「どんなふうに人生を締めくくりたいか」を自分で選びたいと考える人もいて、墓づくりを見直す声も、少しずつ聞かれるようになっています。
そうした声の一例として、メディアでは、自分の好きだった花を墓石に刻んだ女性の話が紹介されていました。訪れる人に「この花はあの人らしいね」と感じてもらいたいという想いから、その花を選んだといいます。また、夫婦で並んで眠るために、小さなお墓を建てた男性の姿も伝えられています。さらに最近では、○○家の墓という形式にとらわれず、「ありがとう」「感謝」「絆」「愛」といった言葉を墓石に刻みたいと希望する人も増えているそうです。
どの事例にも、自分の人生を自分らしいかたちで締めくくろうとする思いが込められています。
お墓は今や、人生の物語のラストシーンをどう描くかという、静かなプロジェクトなのかもしれません。お墓をつくることは供養のためだけでなく、「自分らしい生き方をどう残すか」を考える機会にもなっています。

墓じまいと墓づくりは同じ想いから
「墓じまい」と「墓づくり」は、一見すると正反対のようにも思えますが、どちらにも共通しているのは、家族への思いやりではないでしょうか。
お墓をしまうことも、残された人に負担をかけないための決断です。一方で、お墓を建てることも、「自分の死を迎える準備」としての思いやりです。どちらが正しいということではなく、どちらも、自分の人生と真剣に向き合うひとつのかたちなのだと思います。
「代々受け継ぐもの」だったお墓は今、「自分で選ぶもの」へと変わりつつあります。しかし、そこに込められた想いや祈りは、これからも変わらないのかもしれません。
時代に合ったスタイルで、自分や家族にとって無理のない、そして納得できる供養を見つけていくことが、これからの「終活」のひとつのかたちと言えるでしょう。