中国で広がる海洋散骨とエコ葬
近年、世界各国で葬送のあり方が大きく変化しています。
ライフスタイルや価値観の多様化、高齢化社会の進行にともない、「伝統的なお墓にとらわれない供養」を選ぶ人が増えています。
日本でも、「自然に還りたい」「子どもに負担をかけたくない」といった想いに応える選択肢として、海洋散骨や樹木葬などが、少しずつ定着してきています。
そして、こうした流れは、中国にも広がり始めているのです。
中国では、急速に進む高齢化や都市部の深刻な土地不足といった社会的背景を受けて、政府主導による「葬式改革」が本格的に推し進められています。
伝統的な土葬文化が残る国でありながら、今、多くの地域で火葬や散骨といった方法が導入されつつあり、特に都市部ではそれが現実的な選択肢として広がっているのです。
なかでも注目を集めているのが、海洋散骨をはじめとする「エコ葬」と呼ばれる新たな供養のスタイルです。
このような中国の葬式改革については、日本のメディアでも取り上げられています。たとえば、2025年4月4日放送の日本テレビ「news every.」で、中国で進む葬式改革として、海洋散骨の様子や政府の取り組みが紹介されていました。
環境への配慮や経済的な理由、そして「自然に還りたい」という遺志や遺族の希望など、さまざまな想いが重なり合いながら、こうした新しいかたちの弔いが、中国各地で受け入れられつつあります。
火葬の原則化と海洋散骨が広がる背景とは?
中国では、もともと土葬が一般的で、先祖を大切にする文化のなか、伝統的な儀式を重んじる風習が長く受け継がれてきました。しかし、1990年代以降は都市化と人口の増加により、墓地不足が深刻な問題となっていきました。これを受けて、1997年には「葬祭管理条例」が施行され、中国全土で火葬を基本とする方針が定められました。
その後も、2000年代の「社会主義新農村建設」政策の一環として、火葬場や公共墓地の整備が進められ、2020年代にはさらなる制度改革が始まりました。注目されるのは、都市部を中心とした「海洋散骨の推進」です。北京や天津などの沿岸都市では、政府が主導するかたちで、無料で行える合同海洋散骨が実施されています。
また、生前に散骨を選択した高齢者に対しては、自治体によっては奨励金を支給する制度もあります。これは、高齢者が亡くなるまでの間、月額2000~8000円程度の手当を支給することで、事前に散骨を選んでもらい、土葬や墓地利用を抑制することを目的としています。

中国の海洋散骨、都市で定着しつつも地方では反発の声も
こうした制度整備の効果もあり、散骨を選ぶ人は年々増えています。
とくに北京市では、2023年の時点で年間1万件を超える海洋散骨が行われており、都市部では新しい供養のスタイルとして徐々に広がりを見せています。
海洋散骨は、政府が提供する専用船を使って行われ、遺族が乗船し合同セレモニーに参加するという形式です。遺灰は水に溶ける袋に入れて撒かれるため、環境への配慮もされています。
お墓を持たずに自然へと還ることができるという点で、若い世代や都市に住む人たちの間で関心が高まっているのも特徴です。
さらに、動画投稿サイトやSNSを通じて自身の体験を共有する人も増えており、散骨はもはや「特別な選択」ではなく、「身近な選択肢」のひとつとして受け入れられつつあります。
しかし、もちろん反発もあります。農村部では今でも祖先崇拝に基づく土葬文化が根強く、政府による火葬や散骨の推進に反対する住民も少なくありません。地域差を考慮した丁寧な制度設計が求められるのも事実です。
中国の散骨から考える、これからの弔い方
中国で進められている葬式改革や散骨の広がりは、制度が変わったというだけでなく、人々の暮らし方や「死との向き合い方」そのものにも変化が生まれていることがわかります。
これまでの常識から離れ、それぞれの価値観や環境への想いを大切にする時代へと、少しずつ舵が切られているのでしょう。この流れは、きっと日本を含めた他の国々にも少なからず影響を与えていくはずです。
これからは、制度のわかりやすさや地域との対話、そして多様な文化や宗教を尊重したうえでの「新しい弔いのかたち」をどう受け入れていくかが、大切なポイントになっていくと思います。
中国のこの取り組みは、急速に変わる社会のなかで生まれた、ひとつの大きな挑戦でもあります。今後の動きがどう広がっていくのか、注目していきたいところです。