スマホで祈る自由な供養のかたち

日本では、供養といえばお墓参りや仏壇の前での手を合わせる姿が一般的です。先祖への感謝の気持ちや、故人を偲ぶ気持ちを形にする手段として、家制度や地域の風習とともに受け継がれてきた供養文化ですね。

しかし近年、少子高齢化や核家族化、都市部への人口集中などによって、伝統的な供養のあり方が大きく変わりつつあります。

「お墓を継ぐ人がいない」「宗教的儀礼にはあまり馴染みがない」などの声に応えるかたちで、手元供養や樹木葬、そして海洋散骨など、新たな選択肢が広がってきました。

そして今、スマートフォンを片手に行う供養のかたちとして、注目を集めているのが「供養Vlog（ブイログ）」です。

なぜ供養Vlogが注目されているのか？

「Vlog」とは、「Video Blog（ビデオブログ）」の略です。日常の出来事や趣味、体験などを映像で記録し、YouTubeやTikTok、InstagramなどのSNSで公開するスタイルのことです。

供養Vlogは、そのVlogの形式を使って、故人への想いや葬儀の様子、お墓参りの風景などを映像で共有するもので、たとえば、以下のような投稿が人気を集めています。

・実家の仏壇を掃除してお花を供えた様子
・海洋散骨の様子と故人への手紙を読むシーン
・おばあちゃんの命日に好きだった料理を作る様子
・旅先で故人の思い出を語りながら手を合わせる映像

このような供養Vlogは、単なる記録としての役割にとどまらず、視聴者の共感を呼び、コメント欄に「私も最近父を亡くしました」「温かい気持ちになれました」といった声が集まることも少なくありません。

なぜ、今このような供養Vlogが広がっているのでしょうか。その背景には、以下のような社会的変化があります。

・非宗教的、自由な供養を求める人の増加
・家族や親族との距離がある中での、新たなつながり方の模索
・SNSや動画プラットフォームの浸透による、表現の民主化

そして何より、「誰かと気持ちを分かち合いたい」という人間の根源的な欲求に応えてくれる場として、供養Vlogは現代のニーズに合致しているのです。

供養Vlogの賛否の声

一方で、供養Vlogに対しては、否定的な意見もあります。

「亡くなった人をSNSのネタにしていいの？」「弔いは人に見せるものではないのでは？」という声も、当然あるでしょう。特に、プライバシーへの配慮の観点から、違和感を覚える人も少なくありません。

しかし、供養Vlogを通じて心を癒やす人がいることもまた事実です。

・言葉にすることで、気持ちの整理ができた
・誰かに話すことで、故人が生きていた証を残せた気がする
・「同じような経験をした」と共感してくれる人に出会えた

これは、葬儀や法要の場が減少し、個人の悲しみが孤立しがちな今の時代だからこそ、生まれてきた「共有と共感の場」だと言えるかもしれません。

また、実際に葬送や供養を記録に残しておくことで、後世に伝える文化継承の一助にもなり得ます。たとえば、海洋散骨や自然葬といった供養の方法を映像で知ったことが、家族での終活のきっかけになることもあるのです。

自由な供養で故人と向き合う

私たちは、もっと自由に、もっと自分らしく、故人と向き合ってもいいのかもしれません。かつて供養といえば、決まった場所で決まった儀式を通して静かに手を合わせるものでした。けれど今、SNSや動画の普及により、祈りや追悼のスタイルも少しずつ多様化しています。

供養Vlogと呼ばれる、故人との思い出を映像で綴るスタイルもその一つです。もちろん、映像に残すことがすべてではありません。静かに手を合わせるだけの祈りも、その人らしい供養であることに変わりはありません。

大切なのは「どうするか」ではなく、「どんな気持ちで向き合っているか」。

ふと空を見上げたり、花を手向けたり、故人の名前を口にしたりする日常の一瞬にも、供養の心は宿ります。それはすべて「記憶を紡ぐ行為」なのです。

あなたがあなたらしく、大切な人を想い、語り継いでいく。その祈りのかたちは自由でよくて、それ自体が、かけがえのない供養なのだと私は思います。

そして、こうした多様な祈りのかたちが、これからの供養をより自由であたたかなものにしていくのでしょう。