遺骨と旅する映画「マイブロークンマリコ」
「親友の遺骨と旅に出る」というキャッチフレーズが気になり、先日、映画「マイブロークンマリコ」を観ました。
2022年に公開され、主人公シイノが親友のマリコを失った後に抱える喪失感、後悔、そして怒りの表現がリアルで、世間に注目された映画です。またシイノがマリコの遺骨を持って旅に出るという非日常的な行動を通じて、最終的に故人との別れを受け入れるというテーマがリアルに描かれていて、多くの人たちの心に響いた作品でもあります。シイノ自身の葛藤や無力感が手に取るように伝わってきて、私も心が動かされました。
また、原作コミックのメッセージを忠実に映画化したことでも話題になりました。原作ファンからの期待が高く、キャスティングや映像美、音楽も原作の雰囲気をしっかりと反映していたことが評価され、映画を通じて新たなファン層も広がったそうです。さらに、孤独や生きづらさといった現代的な問題にも焦点を当てていて、社会的にも共感を呼びました。特に親しい人との別れや、心の中に残る後悔とどう向き合うかというテーマは、幅広い世代に訴えかけられ、観た人に深い印象を残しました。
映画「マイブロークンマリコ」のあらすじ
ネタバレを含むため、閲覧にはご注意ください。
映画「マイブロークンマリコ」は、幼なじみのシイノとマリコの絆を描いた物語です。マリコは幼い頃から父親の暴力や虐待を受け続け、その中で必死に生きてきました。しかし突然、彼女が自ら命を絶ったという知らせがシイノに届きます。親友の死を知ったシイノは、マリコを救えなかった自分に対して強い後悔を感じ、彼女を「解放してあげたい」と思い立ったのです。
翌日、シイノはマリコの部屋を訪れますが、既に遺品は両親が引き取り遺体も直葬になったと知らされます。そしてシイノは、今からでも彼女のために何かできないかと考えた結果、せめて遺骨だけは救い出そう決めます。マリコは日常的に父親から肉体的、精神的、性的な虐待を受けていたのです、シイノはマリコの遺骨がそんな父親の元にあることが許せず、包丁を鞄に忍ばせてマリコの遺骨のある実家へセールスを装って入り込みます。
その後シイノは、奪いとったマリコの遺骨と共に、二人の思い出を振り返りながら旅に出ます。その旅は、マリコが感じていた苦しみに向き合い、自分が親友としてもっと何かできなかったかと考える時間でもありました。
シイノは、かつてマリコが「まりがおか岬」に行きたいと言っていたことを思い出し、その岬を目指しました。シイノはまりがおか岬に到着しましたが、道路を歩いているところで後ろから来たバイクに乗っている男に鞄をひったくられ、スマホ、財布、そしてマリコからの大事な手紙の全てを失ってしまいました。
そんなシイノのそばを、釣り人の男性が偶然通りかかり声を掛けます。シイノは鞄を取られたことを話すも、手紙を取り返したい焦りからマリコの遺骨を置いたままバイクを追いかけていくのでした。
当然ですがひったくり犯は捕まえられずシイノは戻ってきますが、何と釣り人の男性がマリコの遺骨の隣で座って待っていたのです。そして無一文になったシイノに、お金を渡して去っていきます。
翌朝、海岸沿いの船で寝ていたシイノは、偶然昨日の釣り人の男性(マキオ)に再会し「ご自分を大事にしてください」と言われます。シイノは自分も同じことをマリコに言っていたこと、男たちにDVされていたマリコのことを思い出しました。
その後シイノは、自分に何も言わず死んでしまったマリコに対して苛立ち、衝動的に崖から海に飛び込もうとしますが、その場を目撃したマキオに羽交い絞めにされて止められます。シイノとマキオがもみ合っているところに、女子中学生の「助けて!!」という叫び声と共に、ヘルメットをかぶった男が女子中学生を追いかけているのが目に入ります。その「助けて!」という叫びを、マリコの叫びに重ねたシイノは無意識に体を動かしてヘルメット男のところまで走り出し、マリコの遺骨が入った骨壺で男を殴り倒しました。衝撃で男は倒れますが、同時に骨壺が割れてしまい、中からマリコの遺骨が飛び散ってしまたのです。
シイノは飛び散ってしまったマリコの遺骨を掴もうとしますが、勢い余って崖から落ちてしまいます。そして浜辺に打ち上げられたシイノのもとに、マキオがやってきて「ここでは死ねないんだよね。自分もやったことがあるんだ」と自分も自殺を試みたことがあると打ち明けました。
そしてマキオは「いない人に会うには、自分が生きていくしかないんじゃないか」「想いでの中で生き続ける彼女は、君が死んでしまうと永遠に消えてしまう」と語りかけたのでした。
ちなみにヘルメット男はシイノの鞄をひったくった男と同一人物で、シイノはマリコの手紙を取り戻すことができました。
シイノが帰宅すると、マリコの実家で脱いだ靴や手紙が届いていて、そこにはマリコがシイノ宛に書いた手紙も入っていました。手紙の内容は明かされませんでしたが、シイノは旅を通してマリコとの思い出と悲しみを受け入れ、死と向き合うことができたのではないでしょうか。
遺骨を持って旅に出る意味
遺骨を持って旅に出ることは、故人との絆を深く感じながら、自分自身の感情と向き合う大切な時間になります。大切な人を失った時、悲しみや後悔、孤独感が押し寄せることがありますが、遺骨と共に旅をすることによって、その感情と向き合い、整理することができます。
また故人が好きだった場所や、二人で訪れた場所を再び巡ることで思い出が蘇り、故人が近くにいるような感覚になるかもしれません。逆に、新しい場所を訪れる場合には「もし故人がここにいたらどう感じただろう」「どんなことを話していただろう」といったことを想像したり、心の中で故人との会話が再び始まることもあります。そして、故人との新しい思い出を作っているように感じることができるかもしれません。
旅そのものも、日常から離れて心を落ち着かせるための良い機会です。美しい景色や出会いを通じて、普段の生活では考えられないことや、故人との思い出を改めて振り返ることができるでしょう。さらに遺骨を持っていることで、普段以上に深く故人を想い、その想いを大切にすることができます。そして故人を失った悲しみから立ち直り、少しずつ前向きな気持ちが生まれることもあります。
遺骨を持って旅をすることは、心の整理をつけ、新しい道を歩き出すためのきっかけを与えてくれるものです。このような旅は悲しみと向き合いながらも、未来へ向かって歩むための大切な時間となることでしょう。
故人を失った悲しみを受け入れるために
故人を失った悲しみを受け入れるためには、旅以外にも様々な方法があります。
失った直後はショックが大きいですが、無理に立ち直ろうとせず、泣いたり思い出に浸ったりする時間を持つことで、少しずつ心の整理が進んでいきます。そして悲しみを無理に抑え込まず、時間をかけて感情を整理することが大切です。
また悲しみを一人で抱え込まず、家族や友人、グリーフケアカウンセラーに話すことも良いでしょう。孤独感が軽減され、人と支え合いながら悲しみを受け入れていくことができ、前向きに生きることに繋がるかもしれません。
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故人に手紙を書く、芸術活動や趣味を通じて悲しみや想いを表現する、故人に関連する場所や活動に関わることでも、故人を大切に思い続ける気持ちが心の中で整理されていくことがあります。
このように、故人を失った悲しみを受け入れる方法は一つではなく、様々な手段があります。大切なのは、無理に感情を抑え込まず、自分に合った方法で時間をかけて悲しみと向き合うことです。悲しみは人それぞれのペースで癒えていくものです。旅以外にも、人と感情を共有することや、趣味や活動などの方法を通じて、故人との繋がりを感じながら、少しずつ前に進むことができるでしょう。