「ベトナムでも散骨をしてほしい」というお問い合わせをいただくことがあります。ハロン湾やニャチャン湾の透明な海、フーコック島の白い砂浜――確かに、故人を送り出す場所として魅力的な候補地です。しかし弊社では現在、ベトナムでの海外リゾート散骨サービスをプラン化しておりません。今回は、弊社が行った調査をもとに、その理由をできるだけ丁寧にご説明します。
✱本記事は、弊社が現地の公開情報等をもとに行った一次調査とその受け止めに関するものであり、法律解釈の正確性を保証するものではありません。ベトナムの法令や運用は今後変わる可能性がある点に留意してください。
ベトナムの散骨、法律上は「禁止でも合法でもない」グレーゾーン
ベトナムの墓地・火葬施設に関する主要法令であるNghị định 23/2016/NĐ-CP(2016年4月公布)を確認したところ、規定されているのは「Cát táng(火葬後の遗骨の埋葬)」と「Lưu giữ tro cốt(火葬場・納骨堂での遗灵保管)のみで、海や川への散骨についての明文規定は見当たりませんでした。つまり散骨は、国レベルでは「禁止されてもいないが、合法として明文化されてもいない」グレーゾーンにあると考えられます。
現地の一次情報をあたると、実際の散骨(水葬)は短時間で完了し住宅地から離れた場所で行われることが多いため、本来必要とされる地方当局への事前許可が事実上求められないまま黙認されているとする現地報道もあります。しかしこれはあくまで個人レベルでの運用実態であり、事業者が商業サービスとして継続的・公開的に実施することを保証するものではありません。
候補地として検討したハロン湾、ニャチャン湾、フーコック島はいずれもUNESCO世界遗産や海洋保護区などの環境保護規制下にあり、散骨に特化した規則は確認できないものの、現地管理当局への個別確認・許可取得が実務上不可欠と考えられます実はこの「法律に明文規定がない」という構造自体は、日本も同じです。
日本の「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」にも散骨そのものの規定はなく、1991年に法務省刑事局が「節度をもって行う限り遗骨遗棄罪(刑法190条)には抵触しない」との見解を示したにとどまります。違うのは、日本にはその上に約30年分の実施実績・トラブルと試行錯誤・業界慣行の積み重ねがある点です。
儒教由来の祖先崇拝文化―「参れる場所」を残さないことへの高いハードル
ベトナムの宗教は大乗仏教が主流ですが、各家庭の生活に根づいているのはむしろ・実は中国支配時代に儒教とともに伝わった「孝」の観念に根ざす祖先崇拝(thờ cúng tổ tiên)という民間信仰です。各家庭・商店には祖先を祭る小さな祭壇(バンフォー)があり、日常的に線香をたき、果物や紙銅(死後の世界で使うとされる紙製の贈り物)を供えて燃やす習慣が根付いています。
日本の「家墓(一つの墓石に代々を合祀)」とは異なり、ベトナムでは「お墓は個人で1つ」という考え方が一般的で、夫婦の墓が隣同士に並ぶ形式が基本です。旧正月(テト)を中心に年に数回、家族で墓参りをする習慣も根強く残っているとされています(地域差の可能性もあり)。
こうした背景から、「参拝対象となる固定の場所を持たない」散骨が、社会に広く受容されているとは言い難いのが実情です。そういった事情から、そもそも散骨という発想自体が生まれにくく、散骨を明確にタブー視する公式見解(政府・宗教団体)が普及しているとは言えない状況です。
日本で「散骨も供養の形」と受け止められるまでにかかった30年
参考までに、日本で散骨が社会的に受容されるまでの歩みを整理します。ベトナムの現在地は、時系列的にはこの「1991年より前」の段階に近いと考えられます。
・1991年:法務省の見解
NPO法人「葬送の自由をすすめる会」が相模灣で日本初とされる海洋散骨(自然葬)を実施。同年、法務省刑事局が「節度を持って行われる限り違法ではない」との見解を示した。
・1990年代〜2000年代:認知の拡大とトラブルの顕在化
著名人の事例や報道を通じて認知が向上する一方、実施場所の近隣住民・漁業関係者などからの苦情・反対運動も発生した。
・自治体条例による規制
湯河原町や七飯町など一部の自治体が、独自の条例で散骨を規制する動きも出てきた。
・業界の自主規制
日本海洋散骨協会など事業者団体が自主ガイドラインを策定し、実施場所・粉骨化・環境配慮などのルールを整備した。
・2021年3月:厚生労働省ガイドライン公表
厚生労働省が「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」を公表。法律ではないが、事業者選定の目安として機能している。
つまり日本でも、法律そのものが整備されたわけではなく、「実施の積み重ね→トラブル対応→自治体条例→業界自主基準→省庁ガイドライン」という約30年がかりの社会的合意形成プロセスを経て、ようやく現在の状態に至っています。ベトナムは、法制度の未整備・実施実績や業界慣行の不在・強い祖先崇拝文化という点で、この積み重ねの初期段階にすら達していないと考えられます。
弊社の判断―「時期尚早」という結論
弊社では、散骨がご供養の選択肢の一つとして大切なものであると確信しています。しかしたとえそうであっても、それを掲げて強行的に正当化する姿勢は保ってはいけません。
ベトナム現地の方が、配慮をもってごくプライベートな供養として散骨を行うこと自体が直ちに悪いとは思いませんし、また将来的にベトナムでも公に散骨が認められる可能性はあります。
しかし現時点でリゾート散骨事業者として商業サービスを実施することは、法的リスクの有無以前に、現地の社会通念・葬送文化への配慮という観点から適切ではないと判断し、見合わせております。
弊社が現在ご提供しているエリアについてはいずれも現地の法律・文化を調査したうえで、安心してご利用いただけるプランを整えております。同じ東南アジアの事例として、以下の記事もあわせてご参考ください。
関連記事:【フィリピンで散骨はできないって本当?――法律と現地文化から徹底検証――】
参考:
Nghị định 23/2016/NĐ-CP về nghĩa trang và cơ sở hỏa táng(LuatVietnam)
Cho thuê tàu, cano đi ra biển Vũng Tàu rải tro cốt sau hỏa táng
厚労省が「散骨に関するガイドライン」を公表(みんなのお墓)





