ドイツ、ラインラント=プファルツ州とザクセン=アンハルト州で埋葬法を改正
ドイツのラインラント=プファルツ州とザクセン=アンハルト州では、42年ぶりに埋葬に関する法律が改正されました。
長い間、ドイツ全体で「遺骨は必ず墓地に埋葬する」という原則がありましたが、今回の見直しにより、2025年10月1日からはラインラント=プファルツ州に住む人々がライン川やモーゼル川、ラーン川、ザール川を「河川埋葬場所」として選べるようになったのです。
河川埋葬は、水溶性セルロース製の「すぐ溶ける骨壺」を使用し、投下は船上から行うことが定められており、岸や橋からはできません。また、直接遺灰をばら撒く「散骨」は禁止されており、環境規制を守った正式な埋葬として行われます。施行できるのは資格を持った葬儀業者に限られていて、花や物品を水に投げ入れる場合は水域管理当局の許可が必要です。
ただし、誰もが自由に行えるわけではありません。河川埋葬の対象となるのは、故人の最終本籍(主たる住居)がラインラント=プファルツ州内である場合に限られます。また、故人本人が生前に「葬送指示・喪主指定」を書面で残していることが条件となります。
これまで火葬後の遺骨を河川埋葬することは禁止されていました。しかし、SPD(社会民主党)、緑の党(環境保護派)、FDP(自由民主党)の連立政権によって新しい法律が導入され、ついに河川埋葬が可能になりました。さらに、遺骨を収めた骨壺を家庭で保管したり、遺灰から記念ダイヤモンドを製作することまで法律で認められています。
また、ザクセン=アンハルト州の法改正には、文化的・宗教的な配慮も含まれています。
流産や死産で亡くなった子どもたちは「星の子ども(Sternenkinder)」と呼ばれますが、従来は公式に埋葬の対象とされず、無名のまま扱われることも少なくありませんでした。しかし、新しい法律では、こうした小さな命の埋葬が義務づけられ、尊厳をもって見送ることが制度として保証されました。さらに、イスラム教徒やユダヤ人にとって伝統的なシュラウド埋葬(覆布葬)が初めて認められました。
ドイツでは「墓地埋葬義務(グラブツヴァング)」が制度の基本とされてきました。しかし、今の暮らしのなかでは、墓地の維持や承継の負担、遠方に住んでいてお墓に通えない不便さ、故人を自分らしく見送りたいという願い、宗教や文化の違いへの配慮、そしてより心に残る供養のかたちを求める声が広がっています。こうした流れを受けて、墓地埋葬義務は見直され、大きく変わり始めているのです。
ドイツ埋葬法改正に賛否~教会や保守政党の懸念と葬祭業界の支持
一方で、この改正には賛否が分かれています。
カトリックのマインツ司教ペーター・コールグラフは「自宅に置かれた骨壺の行方を誰も把握できなくなる」と懸念を示し、プロテスタント教会パラティネートのドロテー・ヴュストも「引っ越しなどで骨壺が忘れられたり、遺灰から作られたジュエリーが失われるのは望ましくない」と警鐘を鳴らしました。
さらに、保守政党のキリスト教民主同盟(CDU)のクリストフ・ゲンシュは州議会で「墓地文化への死刑宣告だ」と発言し、保健相クレメンス・ホーホ(SPD)を「墓地の掘り起こし人」とまで呼んで批判しました。
これに対し、ドイツの葬儀社の約9割(約5,000社)が加盟する葬祭業界団体BDBは、この改正を前向きに受け止めています。事務局長のシュテファン・ノイザーは「遺族からは、骨壺を自宅に置きたいとか、遺灰をジュエリーにしたいという声が実際に多く寄せられている。今回の改正は、そうした思いをようやく制度として形にしたものだ」と語り、これまで求められてきた声に応える内容だとしています。

ドイツで火葬率が7割に~墓地利用の減少と変わる葬送文化
ドイツ社会全体でも葬送のあり方に大きな変化が見られます。
1970年代には珍しかった火葬が、今では全体の7割近くを占めるようになり、昔ながらの土葬や墓地の利用はどんどん減っています。そのため都市部では使われなくなった墓地が増え、ベルリンではサッカー場およそ476面分に相当する広さの空き地が生まれていると報じられています。
さらに、人々の暮らし方や価値観も変わってきています。転勤や引っ越しで住む場所が変わるのは今では当たり前になり、生活の拠点は一定ではありません。パッサウ大学の社会学者トルステン・ベンケルは「人々はもはや、どこでどう弔うべきかを決められることを望んでいない。喪の場所は墓地ではなく、自分が暮らしている場所にあると考える人が増えている」と話しています。墓参りをしない理由は距離や心理的な負担などさまざまですが、そうした背景から「デジタル空間」が悲しみや思い出を共有する場所として使われることも増えています。
宗教的・文化的多様性、世俗化、精神的健康や環境への関心が高まるなかで、今回の改正は時代の流れを反映するものとなっています。
デスツーリズム防止と新しい葬送時代へ
今回の改正は、墓地埋葬義務を見直し、多様な弔い方を認める大きな一歩となりました。葬送消費者団体「Aeternitas」は、この改革が全国に広がることを期待しつつも、伝統や不信感のために、受け入れにはまだ強い抵抗があると懸念されています。c
広報担当のアレクサンダー・ヘルバッハ氏は「ドイツの埋葬規則は不信や時代遅れの伝統に縛られており、他国に比べて不自由だ。実際には多くの人が現行ルールを守っていない」と語りました。
実際、一部のドイツ人は国外で火葬を行い、遺灰を持ち帰ったり、骨壺を海外の火葬場に送り、遺灰を受け取っていたといいます。
こうした「デスツーリズム」を防ぐため、河川埋葬はラインラント=プファルツ州在住者に限定され、元住民や州外の人は対象外となりました。さらに、骨壺の管理を任された人が他州に引っ越した場合、その骨壺を自宅で保管することも、他人に譲ることも許されません。州ごとの違いが、理不尽で悲しい状況を生むこともあるでしょう。
また、北部シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州では、遺体を土に還す新しい方法「自然有機還元(テラメーション)」の試みが始まっています。遺体を藁を敷いた繭のような施設に安置し、微生物の力でおよそ40日かけて分解し、土へと還していく仕組みです。
こうした変化について、社会学者トルステン・ベンケルは「墓地がなくなることはないが、これからは数ある選択肢のひとつになるだろう」と話しています。、また、宗教や文化の多様性や世俗化、心のケアや環境への関心が高まるなかで、法律はまだ十分に追いついていないとも指摘されています。
ドイツは今、墓地埋葬義務(グラブツヴァング)の見直しを通じて、河川埋葬やテラメーションといった多様な葬送文化を受け入れる新しい時代に入りつつあります。
日本から遺灰を持ち込んでの河川埋葬は現状では認められていませんが、個人的には将来制度が広がり、国際的にも利用できるようになることを期待しています。






