TikTokで注目「終活ムービー」とは?
最近、アメリカのTikTokである動画が大きな注目を集めました。
葬儀業界で働く若い女性が、自分自身のために作った「葬儀用のモンタージュムービー」を親友に披露するという内容です。日常の何気ない一コマとして始まったこの動画は、多くの人の心をつかみました。
主人公はアメリカで葬儀業界に6年以上携わるアレクシスさん。
ある夜、親友ジャスミンさんの家を訪れた彼女は、ノートパソコンを持ち出して「ちょっと、私のお葬式ムービーを見てくれない?」と切り出します。ジャスミンさんは冗談かと思い笑っていましたが、再生された映像には彼女の本気の思いが詰まっていました。
アレクシスさんが自ら編集した24分間のモンタージュムービーには、彼女のお気に入りの写真、美しい加工ビジュアル、感謝の言葉、そしてユーモアも交えた演出がちりばめられていました。「死」というテーマに真剣に向き合いながらも、重くなりすぎないように作られたその映像には、彼女らしさが溢れていたのです。
終活ムービーの制作背景
アレクシスさんがこの映像を制作しようと決めたのは、知人がバイク事故で亡くなったことがきっかけだったそうです。突然の別れに直面し、戸惑いながら対応に追われる遺族の姿を目にして、「自分の最期は、自分らしく整えておきたい」と強く思ったと語っています。
そうして始まった映像制作は、単なる記録ではなく、彼女自身を表現する一つの作品へと仕上がっていきました。自身の声によるナレーション、選び抜かれた写真、背景音楽、編集のテンポすべてに「私はこう記憶されたい」という強い意志が込められていたのです。
映像の中では、「このTシャツは○○にあげてね」「私の眉毛が変だったら、この写真は使わないで」といった具体的なリクエストまで登場します。ユーモアを交えながらも、自分の存在を最後まで自分らしく伝えたいという気持ちがにじみ出ていました。
動画を見たジャスミンさんは、最初こそ驚きや戸惑いを見せましたが、映像が進むにつれて涙を流し、「ありがとう」と言いました。この一連のやり取りを収めたTikTok動画は公開されると瞬く間に拡散され、数千万回以上も再生されるほどの反響を呼びました。
TikTokで広がる死生観~賛否を呼んだSNSでの反応
この動画に対して、TikTok上では様々な反応が寄せられました。「素敵な発想!」「私も作ってみたい」という共感の声が多く寄せられる一方で、「死をネタにしている」「縁起でもない」といった否定的な意見も少なくありませんでした。
しかしアレクシスさん自身は、こうした反応に対しても冷静でした。「これは遺言を書くのと同じこと。私はただ、それを映像という形で表現しただけ」と語っています。
また、「自分の死について語ることは、周囲への思いやりでもある」という彼女の言葉には、家族や友人の負担を少しでも軽くしたいという静かな気遣いが込められていました。
現代社会では、死について話題にすることが、どこかタブーのように感じられている場面が少なくありません。しかし、少子高齢化や核家族化が進む今では、亡くなったあとの手続きや気持ちの伝え方などを、自分自身で考えておくことが大切になってきています。だからこそ、「自分らしい終わり方を準備する」ことは、決して変わったことではなく、むしろ今の時代に合った終活のスタイルとして関心が高まっているのです。

終活ムービーで伝える「私らしい最期」
アレクシスさんの選んだ方法は、自分の最期をどう迎えるかについて、あらためて考えるきっかけをくれました。
これまでの人生を静かにふり返り、その想いを映像として残すことは、見送る人たちの心を支える手助けにもつながっていきます。彼女の行動からは、自分らしさと周囲への思いやりがはっきりと伝わってきて、多くの人の心に残るものがありました。
映像というかたちを選んだアレクシスさんは、自分の思い出や感情、そして少しのユーモアまでもひとつにまとめて、「こんなふうに覚えていてほしい」という願いを伝えました。そのおかげで、葬儀が、故人の人柄や生き方を身近に感じられる時間へと変わっていきます。
ただ、注意しておきたいこともあります。終活ムービーは、想いを伝える手段としては非常に魅力的ですが、法的な効力はありません。たとえば遺産の分配や重要な判断事項を、映像だけで遺すのはトラブルの原因になることもあります。
実際に「〇〇に財産をあげたい」と映像に残しても、それだけでは正式な遺言とは認められません。財産や相続に関する内容は、専門家に相談したうえで、きちんと書面で手続きをしておくことが安心です。
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私たち「海と森のセレモニー」では、終活全般のサポートも行っております。映像を活用したメッセージの残し方や、法的に有効な遺言・相続の考え方など、専門家の立場からアドバイスさせていただきます。
死後の準備というと、どうしても重くとらえがちですが、自分の言葉で「ありがとう」や「大丈夫」を伝えておけることは、生きているうちにできるやさしい贈り物のひとつだと思います。
今回のTikTokは、死を遠ざけるのではなく、自分らしく語ることで、生き方そのものを見つめ直すきっかけになります。こんな終活のかたちが、これから少しずつ受け入れられていくかもしれませんね。