2026年6月、遺言のあり方を大きく変える法改正が成立しました。パソコンやスマートフォンで作成できる「保管証書遺言」が、新しい遺言の方式として加わることになったのです。ハンコや手書きが必須だった遺言のイメージが変わりつつある一方で、実は遺言に書いても法的に実現するとは限らない希望があることは、あまり知られていません。その代表例が、私たちが日々ご相談を受けている「散骨してほしい」という想いです。
今回は、新しく生まれる「デジタル遺言」の仕組みを整理しながら、遺言だけでは伝えきれない「最後の希望」をどう家族に届けるか、という普遍的なテーマを考えてみたいと思います。
遺言制度、実に大きな見直し―「保管証書遺言」とは何か
実は今回の法改正、遺言制度としてはかなり大きな見直しになります。2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、同月24日に公布されました。目玉のひとつが、電子データで作成し法務局が保管する「保管証書遺言」の創設です。
具体的には、パソコンやスマートフォンで遺言書の全文を作成したうえで電子署名などによる本人確認を行い、さらに遺言書保管官の前で全文を口述するという手続きを経て、法務局に保管してもらう仕組みです。これまでの「自筆証書遺言」(全文を手書きする)や「公正証書遺言」(公証人が作成する)に次ぐ、3つ目の選択肢が生まれることになります。
あわせて自筆証書遺言などの押印要件も廃止される予定で、これまで以上に遺言を身近なものにしようという方向性がうかがえます。ただし施行日はまだ決まっておらず、押印廃止は公布から1年以内、保管証書遺言の創設は公布から3年以内に、それぞれ政令で定める日から施行される予定とされています。今すぐ使える制度ではない点には注意が必要です。
なぜ、遺言はデジタル化される必要があったのか
背景にあるのは、総務省の調査で13歳から69歳までのほぼすべての年代でインターネット利用率が9割を超えているという、社会全体のデジタル化です。財産の多くがネット銀行やネット証券に移り、通帳という「目に見える形」が残らないケースも増えてきました。
一方で遺言は長らく、手書きか公証人による作成かの二択でした。特に自筆証書遺言は「全文を自分の手で書く」ことが必須で、体調や年齢によっては大きな負担になります。パソコンやスマートフォンで作成できる選択肢が加わることで、より多くの人が生前に自分の意思を形にしやすくなると期待されています。
遺言に書いても、実現するとは限らない「付言事項」―散骨の希望はどう扱われるか
ここで見落とされがちなのが、遺言に書けることには法律上の限りがあるという点です。遺言のうち、相続分の指定や祭祀承継者の指定など法的な効力を持つ部分を「法定遺言事項」と呼び、それ以外の記載は「付言事項」として扱われます。
葬儀の方法や、遺骨を散骨してほしいという希望は、この付言事項にあたります。つまり、遺言書に「海に散骨してほしい」と書いても、それを実行するかどうかは最終的に遺族の判断に委ねられ、法的な強制力はありません。
遺言事項以外の生前の意思や希望を遺言に記載しても法的効力は生じないが、記載すること自体は許されないわけではない。
これは、新しくできる「保管証書遺言」でも変わりません。デジタル遺言になっても、付言事項という位置づけ自体は同じです。「書けば安心」ではなく、書いた想いが本当に届くかどうかは別の問題として考える必要があります。
「また会いに行きたくなる場所」を、確実に遺族へ届けるためにできること
では、法的な強制力がない希望を、できるだけ確実に叶えてもらうにはどうすればよいのでしょうか。専門家がよく勧めるのは、遺言以外の備えを組み合わせることです。
・エンディングノートを併用する
遺言書とは別に、散骨してほしい場所や葬儀の希望を具体的に書き残しておくノートです。法的効力はありませんが、遺言の付言事項と重ねて書いておくことで、家族が故人の意思を確認しやすくなります。
・死後事務委任契約を結んでおく
葬儀や散骨の手配など、遺言事項にあたらない死後の手続きを、生前に第三者と契約しておく方法です。身寄りが少ない方や、家族に負担をかけたくない方にとって特に有効とされています。
・生前に業者と打ち合わせ、内容を共有しておく
散骨や葬送の内容をあらかじめ具体的に決め、家族にもその内容を共有しておく方法です。「誰に」「何を」頼むかが明確になっている分、遺された家族が判断に迷う場面を減らせます。
いずれの方法にも共通するのは、「書き残す」だけでなく「伝えておく」ことが、想いを実現する一番の近道だということです。弊社のような海外リゾート散骨のご相談でも、ご本人が生前にご家族と一緒に打ち合わせに参加されるケースは少なくありません。「また会いに行きたくなる場所」を家族自身が納得したうえで選んでおくことが、遺言や付言事項以上に、想いを確実に届ける力になると感じています。
まとめ
デジタル遺言の登場は、遺言をより身近にする大きな一歩です。一方で、散骨や葬儀に関する希望は今後も「付言事項」という扱いが続き、法的な強制力を持つわけではありません。大切なのは、遺言を書くこと自体をゴールにせず、エンディングノートや死後事務委任契約、そして何より家族との対話を重ねながら、想いを重層的に伝えておくことではないでしょうか。
本記事は2026年9月時点で公表されている情報をもとに作成した一般的な解説です。法改正の詳細や施行時期は今後変更される可能性があります。遺言の作成や個別の法的な取り扱いについては、弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。
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