エンバーミングの普及と課題~利用件数の増加と技術者不足~

執筆者:Tomo

エンバーミングの普及と課題~利用件数の増加と技術者不足~

目次

エンバーミングとは?~故人と最期に向き合い安らかな姿を保つ技術

日本では、亡くなった方と「最期にしっかり向き合いたい」という、遺族にとって大切な気持ちを抱く方が多くいます。

その気持ちを叶えるための方法の一つとして、「エンバーミング」という技術が少しずつ知られるようになってきています。エンバーミングとは、亡くなった人の遺体に特別な処置を行うことで、長時間にわたって安らかな姿を保つことができる技術です。もともとは北米や欧州で広く用いられてきましたが、日本でも利用が増えてきました。

背景には、葬儀のかたちが変わってきたことがあります。昔は亡くなってからすぐに葬儀を行うのが一般的でした。しかし、今では火葬待ちや日程の都合で、数日から一週間ほど間をあけることも少なくありません。

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そのため、ドライアイスだけに頼るのでは限界がありました。そこで、エンバーミングを施すことで、故人の安らかな姿を保ち、遺族が安心して最期の時間を過ごせるようになってきています。

エンバーミングの件数推移と施設数の増加

具体的な数字を見ても、その広がりがわかります。日本で初めてエンバーミングが導入された1988年には、年間わずか191件しか行われていませんでした。ところが2000年度には1万件を超え、2020年度には5万件を上回るまでに増えました。新型コロナの流行で病院での面会が制限された時期には、「せめて最期はしっかりと会いたい」という家族の願いから需要が一気に高まったといいます。そして2024年度には8万件を超え、今も利用は少しずつ広がり続けています。

施設の数も同じように増えています。1988年には全国で48か所しかありませんでしたが、現在は90か所まで広がりました。都市部だけでなく地方でも利用できる場所が増え、遺族にとっては身近な場所で希望を叶えやすい環境が整いつつあります。

エンバーミングの課題~技術者不足と社会的理解の必要性

一方で課題もあります。それは技術者の不足です。日本で活動している「エンバーマー」は2024年度の時点で237人しかおらず、利用件数の増加に追いついていません。

エンバーマーになるには高い専門性が必要です。国内の専門学校で2年間学んで試験に合格するか、海外で資格を取得して戻ってくるかの道がありますが、どちらも簡単ではありません。学費や時間の負担が大きいため、志す人は限られています。人材をどう育てていくかは、業界全体にとって大きな課題です。

さらに、社会的な理解も欠かせません。日本ではまだ「遺体に処置をする」ことに抵抗を感じる人も少なくないのです。宗教的な考え方や文化の影響で、自然のままを望む遺族もいます。だからこそ、エンバーミングの目的やメリットをわかりやすく伝えていくことが、今後の広がりには必要だといえます。

エンバーミングのイメージ

遺族に寄り添うエンバーミング

エンバーミングが広がってきた背景には、日本の葬儀のあり方の変化があります。少子高齢化や家族のあり方の変化に合わせて、葬儀のかたちも多様になってきました。故人と少しでも長く過ごしたい、安らかな姿を保ちたいという願いは、時代を超えて変わらず受け継がれています。

この技術が普及したことで、遺族は落ち着いた環境の中で見送りの時間を持つことができ、後悔の少ない別れにつなげられるようになっています。その一方で、専門の人材をどのように育てていくのか、社会にどのように理解を深めてもらうのかは今後の課題となっています。処置件数の増加は利用者の声に応えるかたちで進んできましたが、今後は安心して利用できる仕組みを整えていく必要があります。

エンバーミングは、遺族の心に寄り添う方法のひとつです。葬儀のあり方が変わっても、故人を想う気持ちは変わりません。その気持ちを支える選択肢として、エンバーミングはこれからも大切にされていくでしょう。

まとめまとめ

1.日本では、遺族が故人と落ち着いて最期を過ごすためにエンバーミングが少しずつ知られてきた

2.エンバーミングは1988年の191件から2024年度に8万件を超え、施設も48か所から90か所へ増えた

3.エンバーマーは国内で237人にとどまり、人材不足と社会的理解の不足が課題となっている

4.エンバーミングは遺族の心に寄り添う選択肢としてこれからも大切にされていくでしょう

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