お墓の後継者がいない、管理の負担が大きい――こうした悩みから、日本では墓じまい(改葬)が過去最多を更新し続けています。実は同じ「墓地が足りない」という課題は、海外でも深刻な社会問題になっています。
2026年3月、イギリス(イングランド・ウェールズ)の法制委員会(Law Commission)は、実に170年ぶりとなる埋葬・火葬法の抜本的な見直しを盛り込んだ最終報告書を公表しました。今回は、その内容と、日本の「墓を手放す」流れとの対比から見えてくるものをご紹介します。
埋葬法改正の背景~170年間ほぼ手つかずだった制度
イングランド・ウェールズの埋葬・火葬に関する法律は、一部が170年以上前のビクトリア朝時代から大きく変わっていないとされています。地方自治体、イングランド国教会、民間など、墓地の運営主体ごとに異なる法律が積み重なってきたため、制度は「継ぎはぎだらけで時代遅れ」だと法制委員会は指摘しています。
背景にあるのは、都市部を中心とした深刻な墓地不足です。2007年の英司法省の調査では、地方自治体の墓地に残された余裕は平均で30年分、都市部ではさらに少ないとされていました。法制委員会は2024年10月から2025年1月にかけて公開協議を実施し、寄せられた意見をもとに、2026年3月18日に最終報告書と政府への提言をまとめました。
プロパティ・家族・信託法担当のリサ・ウェブリー委員は、今回の提言について「墓地不足や、ビクトリア朝時代の法律がもたらす複雑さ、現代英国の多様な宗教・文化的慣習への配慮に応えるものだ」と説明しています。
「100年以上前のお墓」を条件付きで再利用可能に
最終報告書の柱のひとつが、お墓の「再利用」を全国の墓地に広げるという提案です。現在、お墓の再利用が認められているのはロンドンの自治体営墓地やイングランド国教会の教会墓地、独自の法律を持つ一部の墓地に限られていますが、今後は運営者が地域住民との協議を経て政府の許可を得れば、あらゆる墓地で再利用できるようになります。
ただし、無条件で古い墓を掘り返せるわけではありません。今回の提言では、これまでより手続きを二段階にし、安全策を強化する方向性が示されています。
・最後の埋葬から100年
お墓を再利用できるのは、最後の埋葬から現行の75年から100年に延長される見込みです。存命の記憶が残る期間の再利用を防ぐための措置とされています。
・遺族の異議申立て期間を1年に延長
遺族が再利用に異議を申し立てられる期間は、現行の6か月から1年に延長。異議が認められると、その墓の再利用はさらに25年間停止されます。
・戦没者墓地の保護を拡充
コモンウェルス(英連邦)戦没者墓地への保護に加え、これまで対象外だった戦後の軍人墓地についても、国防省が関与する形で初めて保護対象に加えられます。
あわせて、埋葬の際に棺の上に最低60cm(2フィート)の土をかぶせることを全国一律のルールとして義務づける提案も盛り込まれており、これまで法律の定めがなかった多くの墓地に、初めて統一基準が導入されることになります。

未回収の遺灰25万件、ビクトリア朝の閉鎖墓地の再開も
今回の提言は、火葬をめぐるルールの見直しにも及びます。現在イギリスでは、葬儀社のもとに引き取り手のない遺灰が数十万件単位で保管されたままになっているとされ、長年の課題となってきました。
最終報告書では、依頼者に十分な連絡を尽くしてもなお引き取りがない場合、葬儀社が遺灰を火葬場へ返却できるようにすることが提案されています。火葬場は自らの権限で、その遺灰を散骨または埋葬できるようになる見込みです。
そのほか、火葬に関しても次のような改革が提案されています。
・直接火葬(式を伴わない火葬)の透明性確保
近年増えている、通夜や告別式を伴わない「直接火葬」について、依頼内容の透明性を高める仕組みが盛り込まれています。
・身元不明の遺体の火葬を禁止
火葬前の本人確認を厳格化し、複数人の合同火葬は双方の遺族の書面同意がある場合に限定します。
・閉鎖された墓地の再開
ビクトリア朝時代の法律で閉鎖された歴史的な墓地について、地域の教区教会墓地などとして再び埋葬に利用できる可能性が示されています。
これらの提言を受け取ったイギリス政府は、今後法改正を行うかどうかを検討する段階にあり、現時点ではまだ法律として成立していません。法制委員会によれば、新しい葬送方法の規制に関する第二の報告書も近く公表される予定です。
日本にとっての示唆~墓を守る英国と墓を手放す日本
興味深いのは、同じ「墓地が足りない」という課題に対して、日本とイギリスがまったく異なるアプローチを取っている点です。
日本では、厚生労働省の衛生行政報告例によると、2024年度の改葬(お墓の引っ越し)件数は17万6,105件と過去最多を更新し、この10年でおよそ2倍に増加しました。週刊誌の報道では、遺骨を海にまく海洋散骨の実施件数も2025年度に6,690件と、この7年でおよそ6倍に急増したと伝えられています。つまり日本では、承継者のいないお墓を「手放し」、散骨という「お墓を持たない」供養へ向かう流れが加速しています。
一方のイギリスは、限られた墓地という資源を「再利用」することで、埋葬という形式そのものは維持しながら延命させようとしています。墓を手放す日本と、墓を再利用してでも守ろうとするイギリス――どちらも根っこにあるのは、高齢化と都市部への人口集中によって、先祖代々のお墓を管理し続けることが難しくなっているという共通の事情です。
日本でお墓の承継が難しくなった際、海に還る海洋散骨や、思い出の場所で見送る海外リゾート散骨は、有力な選択肢のひとつです。海外の埋葬制度がどのように変化しているかは、下記の記事でも取り上げていますので、あわせてご覧ください。
関連記事:【ドイツで42年ぶりに埋葬法改正~ライン川での河川埋葬や自宅保管、記念ダイヤモンドを合法化~】
関連記事:【海外散骨事情~シンガポール内陸散骨施設編~】
※本記事は2026年8月時点でイギリス法制委員会(Law Commission)が公表した最終報告書等の公開情報にもとづく一般的な解説であり、法的助言を目的としたものではありません。提言は今後のイギリス政府・議会の判断によって内容が変更・修正される可能性があります。また、日本国内における改葬・散骨に関する法制度・手続きについては、個別の状況に応じて専門家・自治体・弊社までご相談ください。
参考:
Law Commission「Law Commission recommends new safeguards to enable wider reuse of old graves」
週刊現代「『墓じまい』どこから始めるのが正解?【フローチャート】で流れ・相場・トラブルを一発回答」
ライブドアニュース「『墓じまい』10年で2倍に急増 お墓の承継者がいないことなどが理由か」






