墓じまいを考える理由とお墓の負担
近年、少子高齢化や核家族化が進むなかで、お墓のあり方も少しずつ変わってきています。昔は当たり前だった「先祖代々のお墓」も、いまでは「このまま続けていけるのかな」と悩む人が増えてきました。
実際、お墓を受け継ぐことには、気持ちだけでなく現実的な負担もつきものです。たとえば、遠方にお墓がありなかなかお参りできなかったり、維持管理費が家計の負担になったりすることもあります。
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しかも従来のお墓は、御影石などの天然石でつくられた立派なものが主流です。丈夫で長持ちするのは魅力ですが、その分、建てるにも片づけるにも大きなお金がかかります。いざ「墓じまい」となると、数十万円から百万円単位の費用が必要になることも珍しくありません。
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こうした課題がある中で、お墓の新しい発想が次々と生まれています。散骨や樹木葬が広がると同時に、まったく違った取り組みも始まってきました。
そのひとつが、MAT一級建築士事務所による「建設用3Dプリンタを使ったお墓」です。
2025年8月26日に発表されたこの取り組みは、ニュースでも「世界でも類を見ない」と紹介され、注目を集めています。
3Dプリンタでつくるお墓の仕組みと特徴、費用
発表されたお墓は、建設用の大型3Dプリンタでモルタルを使って造形されています。 御影石のような天然石に比べると耐久性はやや劣りますが、その分、別の良さがあります。
まず注目すべきは施工の速さです。墓石部分ならわずか15分ほどで仕上がり、花壇や壁を含めても1時間程度で完成します。従来のお墓づくりが数週間から数ヵ月かかっていたことを考えると、驚くほど短縮されています。
もうひとつの特徴はデザインの自由度です。直線的な形だけでなく、曲線や複雑な模様も再現でき、花壇や壁と一体化させることもできます。そうすることで、故人の好みや家族の想いを反映した空間づくりが実現しやすくなります。
さらに環境面にも配慮しています。モルタルは撤去後に砕石として再利用できるため、石材のように処分に苦労する心配がなくなります。「いつか墓じまいをすることになるかもしれない」と考える人も増えているため、撤去しやすく再利用可能な素材は安心です。
施工にかかる費用はデザイン料を含めて約200万円です。決して安い金額ではありませんが、石のお墓の一般的な価格帯と比べると、十分に現実的な選択肢と言えるでしょう。

供養の価値観の変化と3Dプリンタ墓の役割
3Dプリンタでお墓をつくることは、単に「新しい技術を取り入れた」という話ではありません。社会の変化や人々の考え方に合わせた、これからの供養のかたちのひとつです。
昔はお墓を建てて守り続けるのが当たり前でしたが、今はお墓を持たない人や、墓じまいを前提に考える人も増えています。そうした価値観の変化の中から、3Dプリンタ墓が生まれました。
その結果、お墓や供養のあり方もより自由になってきています。お墓を建てるかどうか、どんな形にするかを家族や個人の事情に合わせて選べるようになり、3Dプリンタならデザインを自在に設計して、故人の趣味や家族の思いを反映したお墓をつくることができます。
こうした変化は業界にも影響しています。従来の石材加工や販売に加えて、新しい技術やデザイン提案への対応が求められるようになりました。伝統を大切にしつつ、新しい工夫がどう広がっていくのか楽しみです。
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これからのお墓選びと3Dプリンタ墓の可能性
MAT一級建築士事務所が発表した3Dプリンタ墓は、お墓のあり方を考えるうえで注目されています。
お墓はこれまで「永続するもの」とされてきましたが、いまは「必要に応じて整理や撤去も考えるもの」へと意識が変わってきています。そうした流れに合った取り組みのひとつが3Dプリンタ墓です。施工の速さやデザインの多様さ、環境への配慮といった特徴を備え、供養の可能性を広げています。
さらに将来的には、デジタル技術との組み合わせも進んでいきそうです。QRコードで故人の思い出を表示したり、ARで生前のエピソードや写真を浮かび上がらせたりといった「デジタルメモリアル」も少しずつ現実に近づいています。
供養は亡くなった人のためだけでなく、生きている人の心を支えるものでもあります。大切なのは「形を残すこと」ではなく、「想いをどうつなぐか」。3Dプリンタのお墓は、その考えに合ったかたちのひとつといえるでしょう。
この発表はまだ始まったばかりですが、これからお墓を考える人にとって、新しい発想の参考になりそうです。






