お墓の役割~故人を偲ぶ場所
「お墓」と聞いたらどのようなイメージをしますか?
一般的には灰色の墓石がいくつも並んだ薄暗い場所をイメージするでしょう。
お墓とは、亡くなった人を弔うための「場所」です。そして残された人たちが故人を想い、冥福を祈るために存在しています。また故人との繋がりや過ごした記憶などを確認できる心の拠り所として、遺族を支えています。
現在のお墓の形が定着したのは、火葬が浸透した大正時代以降とされています。この頃から少しずつ霊園や墓地が作られるようになり、そして昭和30年代の高度経済成長期になると、地位や権力に関係なく、誰でも気軽にお墓を建てられるようになりました。
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昭和40年くらいに第一次霊園ブーム、昭和50年代には第二次ブームが到来しました。その後は「お墓を建てるのが当然」という価値観が生まれ、全国に多数のお墓が作られていきました。
そしてもちろん世界各国でもお墓は存在します。しかし国や地域、宗教によってその形や見た目、雰囲気は変わってきます。
今回は、日本のお墓とは全く異なり、世界一陽気なお墓と言われている「ルーマニア・サプンツァ村のお墓」をご紹介します。
ルーマニア・サプンツァ村の世界一陽気なお墓
ルーマニアのマラムレシュ地方サプンツァ村には、陽気なお墓として知られる「The Merry Cemetery」という墓地あります。そこは日本の墓地の様子や雰囲気とはかなり違います。 一見墓地とは思えないような、鮮やかなブルーを基調としたカラフルなお墓がいくつも並んでいるのです。お墓はとてもユニークで個性的なものばかりで、何かのオブジェや芸術作品の様です。
1935年、村人だったパトラシュ氏が故人の生前の職業や生活などを、ユーモラスな彫刻にしてお墓にしたのが始まりで、今では村の伝統になっています。
また、お墓には自分の好きな絵やメッセージを書くことができるのです。生前に職人に依頼して自由に作ることができるので、どのお墓もとても個性的です。
一番多いのは、自分が歩んできた人生や「私は教師でした」「私は木こりでした」などといった職業に関する絵とメッセージで、ひとつひとつのお墓にそれぞれの想いが宿っています。日本の一般的なお墓の墓石に刻まれている「〇〇家之墓」とは、かなり違いますね。
また中には「どうか皆さん彼女の墓標の前ではお静かに願います。大きな声で騒ぐとこの怖ろしい姑が起きてしまうかもしれません。どうか彼女を二度と起こさないようにお願いします」という怖い姑に対する婿のブラックジョークを交えたメッセージが彫られていたり、「私は毎日お酒を飲んでいました。そしてそれが原因で死にました」といった、ユニークだけど笑うに笑えない物まであります。
そのような人生の深みも感じてしまう「陽気なお墓」なのです。そしてひとつひとつ手作業で彫られた絵やメッセージは、不思議と温かい気持ちになります。
イモトアヤコさんのお墓!?
陽気な墓地の近くには、お墓を作る職人の工房があります。現在はパトラシュ氏の意志と技術を受け継いだ弟子が、2代目職人としてお墓を作り続けています。
村には職人が一人だけなので、この工房で陽気なお墓が全て作られています。依頼を受けてから手作業で彫刻や色付けされるので大量生産は出来ません。それだけに職人の手で心を込めて、ひとつひとつ丁寧に仕上げられています。
工房には作りかけのお墓もいくつか置かれているそうです。そして工房の隅には、日本のタレント「イモトアヤコさん」の作りかけのお墓もあるのです。某人気バラエティ番組の企画ネタで作られ、メッセージ欄には「私は今までヘビやワニやオオトカゲなどたくさんの動物と闘ってきました、、、云々」と書かれているそうです。
イモトアヤコさんが生涯を終えた際は、このルーマニアの「陽気なお墓」で眠ることになるのでしょうか。
人生を祝うユニークな場所で気軽にお墓参りを
今回ご紹介した世界一陽気なお墓である「The Merry Cemetery」は、有名な観光地でもあります。年間約3万人もの人々が訪れ、カラフルで美しいお墓の写真を撮ったり、笑顔でお墓を見て回ります。
「お墓なのに、陽気ってどういう事?」「亡くなった人を偲ぶ場所なのに観光地?」と、日本の墓地のイメージからは想像できないかもしれません。
サプンツァ村の陽気なお墓は、先述した村人だったパトラシュ氏が、愛する者を失った人の悲しみが癒えることを願ってお墓を明るいものにしようと思い立ち、故人が残した詩と絵を彫ったことが始まりでした。またこの地方では、死が近づいてきたと感じた村人は、自分の人生を振り返って詩で表現し、自ら棺を用意して旅立ちの準備を整えるといった風習も昔からあったそうです。
そしてサプンツァ村のこのような死に対する陽気な姿勢は、この地方の人々にとって、死とはその後の人生への道であるため悲しむものではないと考えられているからです。誰にでも平等に訪れる「死」に囚われずに、「生」を思う存分楽しみながら満喫しようというものなのです。
またインドネシアのトラジャ族やフィリピン、オーストラリア、ガーナ共和国、メキシコでも「死は終わり」ではなく「新たな生への始まり」と考えられています。
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世界一陽気なお墓「The Merry Cemetery」は、還る人、帰っていく人みんなが笑顔になれるとても素敵な場所です。「寂しい」「悲しい」「暗い」お墓ではなく、気軽にお墓参りに来れて、笑顔で「また会いに来るね」といった墓地なのです。