相続や名義変更は葬儀後すぐ?
大切な人を見送った後、少しずつ日常を取り戻そうとしている時、多くの人が「あれ、これってどうすればいいんだろう?」と戸惑う瞬間が訪れます。
それは、相続や名義変更といった「次の段階の手続き」です。
死亡届の提出や保険証の返納といった役所への手続きは、比較的ガイドが整っています。しかしその後に控える手続きは、期限が長かったり専門性が高かったりするため、つい後回しにされがちです。
たとえば、長年暮らした家が故人の名義のままだと、売却や貸し出し、修繕の手続きに支障が出ることがあります。預金口座が凍結されることで、公共料金の引き落としができなくなるケースも珍しくありません。
葬儀の後、心の整理をする暇もなく慣れない手続きを求められるのが現実です。
関連記事:【死後の手続き①~家族が亡くなったら何をする?~】
相続の進め方~遺言・放棄・税申告まで
相続と聞くと、財産を分けるというイメージを持つ方が多いかもしれません。けれど実際には、その前にやるべきことがいくつもあります。
1.遺言書の有無を確認する
まず最初に確認することは、「遺言書があるかどうか」です。
遺言書には主に3つの形式があります。
・公正証書遺言(公証人の立ち合いで作成された、もっとも安全性の高いもの)
・自筆証書遺言(本人の手書きによるもの)
・秘密証書遺言(内容は秘密にしつつ、公証役場で保管されるもの)
このうち、自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります。
参考:【裁判所「自筆証書遺言の検認」について】
関連記事:【終活を始めよう~遺言書とエンディングノートの作成~】
2.相続人の確定と財産の調査
次に行うのが、「誰が相続人になるのか」を確定する作業です。戸籍を遡って取り寄せ、法定相続人を洗い出します。同時に、故人が残した財産の調査も進めましょう。銀行口座、不動産、株式、車、保険、ローン、未納の公共料金など、忘れがちなものまで含めて確認することが重要です。
3.相続放棄や限定承認をする場合(3か月以内)
調査の結果、「負債の方が多そうだ」と分かった場合には、相続放棄という選択肢があります。また、プラスとマイナスを比べて超えた分だけを受け継ぐ「限定承認」という方法もあります。
これらは、相続を知った日から3ヵ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。
参考:【裁判所「相続放棄の申述期間」】
4.遺産分割協議と協議書の作成
相続人全員が集まり、どの財産を誰がどのように受け継ぐかを話し合います。これを「遺産分割協議」と言い、結果を文書にまとめたものが「遺産分割協議書」です。
万が一、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判によって解決を図ることもあります。遺産分割を円滑に進めるためには、感情論に偏らず、必要に応じて弁護士や司法書士の助言を受けるのも有効です。
5.相続税の申告と納付(10ヵ月以内)
遺産の総額が一定額を超える場合、相続税の申告と納付が必要になります。
具体的には、「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」を超える場合が該当の目安です。
また申告・納付の期限は、相続開始を知った日から10か月以内とされています。
参考:【相続税がかからない財産】
参考:【相続税の基礎控除額について(国税庁)】
相続後にすべき名義変更~登記・口座凍結・実務リスクも紹介
相続手続きのあとに忘れがちなのが、「名義の変更」です。
この名義変更を怠ると、さまざまな不都合が生じることがあります。
たとえば、不動産の登記をしないまま放置しておくと、売却も利用もできません。相続人が増えることで将来の手続きが複雑化し、登記に必要な関係者が増えてしまうケースもあります。
実際、相続から数十年が経過し、当時の相続人が亡くなって次の世代に相続が連鎖することで、権利関係が非常に複雑になってしまった土地が「所有者不明土地」として全国的に問題化しています。これらは開発や売却もできず、社会的な損失にもなっています。
また、故人名義のままの車や銀行口座を使い続けることは法的に問題があります。銀行口座は死亡届が提出されると凍結され、相続人全員の同意がなければ引き出すことができなくなります。クレジットカードの引き落としが止まる、公共料金の支払いが遅延する、といった実務的な影響も発生します。
名義変更が必要なものは、不動産や預金口座のほか、車両、株式、投資信託、生命保険契約、さらには携帯電話やサブスクリプション契約など、多岐にわたります。それぞれの機関で必要書類や手続きが異なるため、一覧を作成して計画的に進めるとよいでしょう。
関連記事:【エンディングノートで遺族をサポートしよう~故人のスマホ・サブスクの解約手続き~】
なお、相続登記は2024年4月から義務化され、正当な理由がない場合は過料の対象となります。
参考:【法務省「相続登記の申請が義務化されます(2024年4月1日施行)」】
参考:【相続登記の申請義務化に関するQ&A】
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相続手続きに悩んだら~司法書士・行政書士への相談は有効?
相続や名義変更の手続きは、残された人にとって、精神的にも現実的にも大きな負担になります。悲しみの中で、多くの書類や期限に追われ、何から手をつければいいのか分からなくなることもあるでしょう。
そんな時は、専門家に相談してみるのもひとつの方法です。
「専門家に相談するなんて大げさでは?」と思うかもしれませんが、行政書士や司法書士への初回相談は無料の場合も多く、料金体系も明確に提示されるため安心です。
また、相続財産の内容によっては、思わぬ節税効果があったり、申告漏れを防げたりするなど、専門家のサポートには大きなメリットがあります。専門知識を持つ第三者の力を借りることで、手続きの負担を減らし、気持ちに余裕を持つことができるでしょう。
「正しく引き継ぐこと」は、単に財産を受け継ぐことではなく、故人の想いや人生を未来につないでいくことでもあります。必要な手続きを確実に行うことが、心を整え、新しい一歩を踏み出す支えになるはずです。