散骨や樹木葬とともに注目される宇宙葬
近年、お葬式やお墓のスタイルが多様になってきました。
海へ還る「散骨」、山に眠る「樹木葬」、遺灰をペンダントなどにして身につける「手元供養」も広がっています。大切な人を偲ぶ方法は、いまや形にとらわれない時代に入ったのかもしれません。
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そんな中、ひときわスケールの大きな供養として注目されているのが「宇宙葬」です。
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宇宙葬といってもいくつか種類がありますが、今回注目されたのはアメリカ・テキサス州の企業「Celestis」が提供する「宇宙から帰ってくる」タイプのお葬式です。故人の遺灰や形見をカプセルに納めて宇宙へ飛ばし、しばらく地球の軌道を回ったあと、再突入して回収し、遺族のもとへ「宇宙に行った証し」として戻してくれる、というプランです。
2024年6月23日、宇宙葬の打ち上げが、SpaceXのロケット「ファルコン9」で行われました。場所はカリフォルニアのヴァンデンバーグ宇宙軍基地。Celestisが用意したカプセルには、166人分の遺灰や形見が入っていたそうです。
「天国より遠くへ」「最後に宇宙を見せてあげたかった」と願う人たちの気持ちが、この宇宙葬の打ち上げに込められていました。
Celestis社が描いた宇宙葬の計画
打ち上げは問題なく成功し、ロケットは計画通り地球低軌道に到達しました。宇宙葬カプセルも軌道上を周回し、宇宙での旅を開始しました。
遺族たちは、宇宙を見ているであろう愛する人の姿を思い浮かべながら、その帰りを心待ちにしていました。旅を終えた遺灰が、ふたたび家族のもとへ戻ってくることを願っていたのです。
実際、Celestisのこのメモリアルプランでは、遺灰や形見を納めたカプセルが数日かけて地球を周回したのち、大気圏に再突入し、パラシュートで減速しながら海上に着水し、船で回収される予定になっていました。宇宙から戻るその旅路は、まるで地球規模の「里帰り」のようでした。
しかし、思いもよらないトラブルが起きてしまいました。
宇宙を旅したカプセルは、予定通り地球の大気圏に再突入しましたが、着水直前に開くはずだったパラシュートが作動しなかったのです。減速できないまま落下したカプセルは、そのまま太平洋の深い海へ沈んでしまいました。

宇宙からの帰還に起きた想定外~遺灰カプセルは海底へ沈んだ
事故が起きたのは、地球へ戻ってくる最後の段階でした。カプセルは太平洋の上空から再突入し、大気の熱に包まれながらも、なんとか無事に戻ってきました。
ところがその直後、本来作動するはずだった減速用のパラシュートが開かず、落下のスピードを落とすことができなかったのです。
落下の勢いは想像以上で、海上での回収は叶わず、Celestisは「遺灰や形見が入ったカプセルは、太平洋の深い場所に沈んでしまった」と発表しました。カプセルの正確な位置も分からず、深海に沈んでしまった今では、引き上げは事実上不可能だとしています。
本来であれば、数日後には宇宙から帰ってきて、遺族のもとへ届けられるはずでした。しかし、回収されることのないまま、カプセルは深い海に沈んでしまい、永遠に戻らなくなってしまったのです。この知らせは、多くの遺族にとってとても大きな衝撃となりました。
Celestisは、「愛する人は宇宙を旅して地球の軌道を回り、今は太平洋で眠っています。そう考えると、これは宇宙の散骨葬とも言えるかもしれません」とコメントを出しました。さらに「そう思えば、心も安らぐと思います」とも言っていて、かなり前向きな受け止め方をしています。
宇宙葬が見せた供養の新しいかたち
宇宙まで行けたとはいえ、カプセルが戻らなかったことに落ち込んだ遺族もいたようです。一方で、「それでも宇宙に行けたことには意味がある」「今もどこか空の向こうにいると思える」と受け止める声もあったといいます。
葬送のかたちは多様化しています。お墓を持たずに自然に還ることを選ぶ人もいれば、遺灰をアクセサリーにして身近に感じたいと考える人もいます。そして、宇宙という果てしない場所に、想いを届けたいと願う人もいます。
どのかたちにも共通しているのは、「誰かを想う気持ち」があることです。
今回の出来事は、失敗という一言では片づけられないほど、多くの人の想いが込められていました。宇宙を目指した人、そして宇宙を見せたかった人も、それぞれの願いは、たしかに一度は叶えられていたのです。
これからも私たちは、大切な誰かを想いながら、ふと空を見上げることがあるでしょう。たとえそこに何も見えなくても、「あの人はあの空の向こうにいる」と思えることが、きっと供養になるのだと思います。