人が亡くなったあと、日本ではほとんどの方が火葬を選びます。「土葬か火葬か」と聞かれても、実際に迷う方はあまりいないかもしれません。けれども世界に目を向けると、その“当たり前”の外側に、新しい選択肢が生まれつつあります。
10月21日、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州(シドニーのある州)の議会で、遺体を時間をかけて土に変える「テラメーション(人間の堆肥化)」を認める法案が可決されました。報道では、埋葬・火葬に続く「第三の選択肢」と紹介されています。
今回は、このニュースの中身と背景を紹介しながら、「自然に還りたい」という願いを、いまの日本でどう叶えられるのかを考えてみます。
オーストラリアで「第三の見送り方」が可決
法案を提出したのは、シドニー選出の無所属議員アレックス・グリニッチ氏です。法案は「公衆衛生改正(テラメーション)法案2026」と名付けられ、州の公衆衛生法を改正して、遺体の「自然有機還元(ナチュラル・オーガニック・リダクション)」を認める内容とされています。
報道によると、法案は10月15日に下院、10月21日に上院を通過しました。10月22日の時点では、州総督の裁可(法律として成立させる手続き)を待っている段階と伝えられています。成立すれば、オーストラリアの州としては初めての例になるといいます。
では、テラメーションとはどのような方法なのでしょうか。現地の報道で紹介されている流れは、次のとおりです。
・植物の素材とともに専用の容器へ
故人の体を、わらやアルファルファ(牧草の一種)、木のチップなどの植物の素材とともに、温度を管理した専用の容器に納めます。
・微生物のはたらきで、およそ30日
容器の中で微生物がはたらき、およそ30日をかけて体を分解していきます。そのあと、さらに30日ほど寝かせる期間を置くとされています。
・できた土は、家族のもとへ
できあがった土は、申し込んだ家族に返すことができるとされています。報道では、量はおよそ110キロになり、記念樹を植えたり、森の再生などに役立てたりできると紹介されていました。
家族は、体を容器に納めるときや土を受け取るときなど、いくつかの節目でお別れの時間を持てるともいわれています。「土に還っていく過程」そのものを、見送りの時間にできるのは、この方法ならではかもしれませんね。
なぜ今、「土に還る」が求められているのか
グリニッチ氏はこの方法を、埋葬や火葬に代わる環境にやさしい選択肢として提案してきました。棺や埋葬の土地を必要とせず、火葬で使うエネルギーや排出される二酸化炭素も抑えられる、というのが支持する人たちの考えです。
背景には、シドニーの墓地不足もあります。2020年に公表された報告書では、シドニーで埋葬のための土地が足りなくなりつつあることが指摘されていました。「お墓の土地が足りない」という悩みは、日本の都市部とも重なるところがありそうです。
海外では、すでに同じような方法を認めている地域もあります。アメリカでは2019年にワシントン州が初めて認め、2025年末の時点で14の州で合法になっていると報じられています。ドイツでも、一部の州で認める動きが出てきました。
関連記事:【ドイツで42年ぶりに埋葬法改正~ライン川での河川埋葬や自宅保管、記念ダイヤモンドを合法化~】
一方で、慎重な声もあります。州議会の審議では、故人の尊厳が損なわれないよう配慮を求める意見も出ました。現地の事業者も、亡くなった方について語る言葉には気を配る必要があると話しています。また、施設の基準や、できた土をどう使ってよいかといった細かなルールは、これから州政府が決めていくとされています。実際に選べるようになるのは、早くても2028年ごろ以降と報じられており、見通しは報道によって異なります。
新しい方法だからこそ、「環境にやさしいかどうか」だけでなく、故人をどう敬い、家族がどう見送るかが丁寧に話し合われているのですね。
日本では選べる?―法律が想定する「土葬」と「火葬」
では、日本でテラメーションを選ぶことはできるのでしょうか。結論からいえば、いまの日本では選べる状況にはないと考えられます。
日本で亡くなった方を葬る方法は、「墓地、埋葬等に関する法律」(墓埋法)で定められています。この法律が想定しているのは、土に葬る「埋葬」(いわゆる土葬)と「火葬」の2つです。
この法律で「埋葬」とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう。
2 この法律で「火葬」とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう。出典:墓地、埋葬等に関する法律 第2条
遺体を専用の容器で土に変えるという方法は、この枠組みの中では想定されていません。国内でテラメーションを行えるという公的な情報も、確認できませんでした。
ただ、「自然に還りたい」という願いそのものは、日本でもすでに大きな流れになっています。鎌倉新書が2026年に行った調査では、お墓を購入した人のうち樹木葬を選んだ人が47.4%にのぼり、一般的なお墓(15.2%)を大きく上回りました。同社が樹木葬の購入者に聞いた別の調査では、選んだ理由で最も多かったのは「子どもに負担をかけたくない」(46.3%)だったといいます。
本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにしたもので、法的な助言ではありません。オーストラリアの制度は今後の裁可や規則づくりによって変わる可能性があります。日本での手続きについては、自治体や専門家にご確認ください。
火葬のあとにも「自然に還る」道はある

日本では火葬が前提になりますが、火葬のあとの遺骨を、どう自然に還すかには、いくつもの道があります。
・樹木葬
墓地として許可を受けた区域で、樹木や草花の下に遺骨を納める方法です。自治体が運営する樹林型の墓地も増えています。
・海洋散骨
遺骨を細かく砕いて粉状にし、海にまく方法です。日本では、厚生労働省のガイドラインや自治体の条例に沿って行われています。
・海外での散骨
故人の思い出の国や、憧れていた海で散骨する方法です。国や地域ごとにルールが異なるため、現地の決まりに沿って行うことが大切です。
テラメーションは「体を土に還す」方法で、散骨や樹木葬は「火葬のあとの遺骨を自然に還す」方法です。かたちは違っても、命を自然の循環に戻したいという思いは、きっと同じところにあるのでしょう。
関連記事:【海に還るか、森に還るか―海洋散骨・樹木葬・森林散骨の違いと、“自然に還る”供養の選び方】
「どこに還りたいか」を、家族で話してみる
テラメーションのニュースは、新しい技術の話であると同時に、「最期をどう迎え、どこへ還りたいか」を自分で選ぶ時代になってきたことを教えてくれます。オーストラリアの議員の中にも、自分もこの方法を選びたいと話す人がいたそうです。
弊社「海と森のセレモニー」でも、オーストラリアのグレートバリアリーフ近海での散骨をご案内しています。世界最大のサンゴ礁が広がる海に、故人を還すという選択です。土に還るか、海に還るか。どちらを選んでも、故人を自然へ送り出したいという気持ちに変わりはありません。
どの見送り方が正しい、ということはありません。好きだった風景や、家族が会いに行けるかどうか、遺骨をあとから動かせるかどうかなど、大切にしたいことは家族ごとに違います。「森がいい?海がいい?」――そんな小さな問いかけから、家族で話してみてはいかがでしょうか。疑問や不安があれば、まずはお気軽にご相談ください。
関連記事:【オーストラリアの葬儀とは?多文化社会の弔いと先住民族アボリジニの「ソーリー・ビジネス」、ウルルと散骨】
関連記事:【遺骨は飛行機に持ち込める?―国内線・国際線のルールと、海外へ「最後の旅」を届けるための準備】
参考:
NSW passes Australia-first 'human composting' bill, giving a third end-of-life option(The Australia Today)
MP Alex Greenwich Passes Bill To Legalise Human Composting In NSW(City Hub)
New South Wales Passes Terramation Bill With Two-Year Post-Assent Start Floor(EconoTimes)
Human composting policy expansion(BioCycle)
墓地、埋葬等に関する法律(e-Gov法令検索)
もうお墓は要らない?一般墓購入はわずか15.2%→樹木葬・合祀墓が主流に(LIMO)






