国が“散骨の船”を出す時代に―シンガポールの海洋散骨フェリー試験運航と、香港・日本の現在地

執筆者:Tomo

国が“散骨の船”を出す時代に―シンガポールの海洋散骨フェリー試験運航と、香港・日本の現在地

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10月12日、シンガポールから散骨にまつわるひとつのニュースが届きました。国の環境庁にあたる国家環境庁(NEA)が、遺灰を海にまくためのフェリーを、2027年後半から試験的に運航すると発表したのです。

日本で海洋散骨といえば、民間の散骨事業者に依頼して船を出してもらうのが一般的です。けれども、海の向こうでは「行政が船を用意し、家族を海へ送り出す」という仕組みが、少しずつ広がり始めています。

今回は、シンガポールの新しい取り組みと、すでに10年以上の実績がある香港の公的フェリー、そして日本の現在地を並べながら、「海に還る」という選択がこれからどう身近になっていくのかを考えてみます。

シンガポール、2027年後半から海洋散骨フェリーを試験運航へ

NEAの発表によると、試験運航の期間は2年間。シンガポール南西部のパシル・パンジャン・フェリーターミナルから毎週運航し、申込1件あたりの手数料は50シンガポールドルとされています。運航はNEAが指定する事業者が担い、1隻に複数の家族が乗り合わせるかたちになる見込みです。散骨を行う海域や予約方法などの詳細は、2027年の運航開始前に公表されるとしています。

現地紙の報道としては、1隻あたり最大8家族、1家族につき6人まで乗船できるといった内容も伝えられています。ただし、正式な運用ルールはまだ示されていないため、今後の発表を待つ必要があります。

背景にあるのは、急速に進む高齢化と、散骨を望む人の増加です。シンガポールでは亡くなった方の約82%が火葬されており、年間の死亡者数は2025年の約2万6,500人から、2040年には約4万人に増えると見込まれています。

同国では2021年、海ではなく陸上の専用施設で遺灰をまく「内陸散骨施設」が初めて導入されました。火葬された方のうち内陸散骨施設を利用した割合は、2022年の約7%から2025年には約12%へと伸びています。さらに、シンガポール国立大学の政策研究所(IPS)の調査では、遺骨を保管するよりも散骨を望むと答えた人が約42%。その内訳は「海への散骨」が27%、「内陸の施設での散骨」が15%で、海を望む声のほうが多かったとされています。

これまで同国での海洋散骨は、民間の葬儀社が決められた海域で行うのが中心でした。NEAは今回の試験運航について、海への散骨をより利用しやすくするとともに、需要を見極めながらサービスのかたちを整えていく狙いを示しています。

先を行く香港―毎週土曜、無料のフェリーで海へ

水面に浮かぶ白い花

実は、アジアにはすでに「公的な散骨フェリー」が根づいている地域があります。香港です。

香港の食物環境衛生署(FEHD)は、300人以上が乗れる大型フェリーを使った無料の海洋散骨サービスを提供しています。大型船への切り替えは2012年から。利用者の増加を受けて、現在は祝日を除く毎週土曜日に運航されています。香港の海洋散骨の申請件数は、2007年の160件から、2024年には1,000件を超えるまで増えたとされています。

公式サイトで紹介されている主な内容は、次のとおりです。

・費用と対象


故人が香港の住民であれば無料。散骨の予定日の10日前までに申請します。1便あたり25家族が乗船でき、各家族は10人まで同行者を連れて行けます。

・散骨の場所と船旅


香港の水域には散骨用の指定海域が3か所あり、フェリーは季節に応じてそのうち2か所へ向かいます。朝9時に出航し、天候などにより3〜5時間ほどの船旅になります。

・船上でのセレモニー


船内には専門の葬祭スタッフが乗り込み、家族ごとに簡単な追悼の時間を設けます。遺灰は海中で自然に溶ける専用の袋に納め、花びらとともに海へ還します。宗教ごとの儀礼にも対応しているそうです。

・散骨のあとの「会いに行く」仕組み


散骨後には、故人の名前や日付、場所を記した記念カードとフォトフレームが手渡されます。さらに、清明節や重陽節の時期には、過去に散骨した家族を海へ案内する無料の追悼クルーズも用意されています。

散骨した海を「何もない場所」にせず、あとから家族が訪ねていける場所として位置づけていることが、香港の取り組みの印象的な点です。また、遺灰の一部を手元に残したい場合は、事前にスタッフへ伝えれば対応してもらえるとしています。

日本の海洋散骨は「民間の実務」と「ルール」で広がってきた

では、日本はどうでしょうか。日本経済新聞の報道によると、2025年の海洋散骨は6,690件で、7年でおよそ6倍に増えたとされています。墓じまいの増加もあり、お墓の役割を海に託す人は確実に増えています。

ただ、日本では国や自治体がシンガポールや香港のように定期的な散骨船を運航する仕組みは、少なくとも広く知られたかたちでは見当たりません。海洋散骨の担い手は主に民間の事業者で、行政はルールを示す立場にあるといえます。

たとえば厚生労働省は2021年、厚生労働科学研究で取りまとめられた「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」を公表しました。遺骨を粉状にすることや、関係法令・自治体の条例を守ることなどを事業者に求めるものです。また、静岡県熱海市のように、陸地から10キロメートル以上離れた海域で行うよう事業者に求めるガイドラインを定めている自治体もあります。

一方で、日本の散骨はあくまで「法律で禁止されてはいないが、明確に制度化されてもいない」という位置づけです。散骨を直接定めた法律はなく、節度をもって行えば違法ではないと一般に理解されているにとどまります。だからこそ、信頼できる事業者を選び、ルールに沿って行うことが大切になります。

同じ頃、日本では遺骨の一部を分ける「分骨」に関する調査も報じられました。株式会社フーフーが10月13日に公表した調査では、分骨の経験者100人のうち95人が「満足」「おおむね満足」と回答し、分骨を選んだ理由として「家族それぞれで供養するため」「手元供養のため」が多く挙がったと伝えられています。遺骨を一か所にまとめるのではなく、家族それぞれが自分に合ったかたちで故人を想う――そんな考え方は、香港で遺灰の一部を手元に残せることにも通じています。

公的な船がなくても、「また会いに行きたくなる海」は選べる

シンガポールと香港の取り組みに共通しているのは、散骨を「特別な人だけの選択」から「誰もが選べる見送り方」へと近づけようとしていることです。費用を抑え、手続きをわかりやすくし、散骨後に海を訪ねる機会までつくる。海へ還すことを、家族の負担にしない工夫といえるでしょう。

日本で同じような公的サービスを利用するのは、現時点では難しいかもしれません。それでも、散骨という選択肢そのものは、すでに私たちの身近にあります。

弊社「海と森のセレモニー」では、セブ島やハワイ、バリ島などの海で、現地のルールに沿った海外リゾート散骨をご提案しています。散骨は弊社スタッフによる代行を基本としており、ご家族が現地に行けない場合でも、写真や動画、散骨証明書で当日の様子をご確認いただけます。もちろん、ご自身で現地を訪れて立ち会うことも可能です。

香港の追悼クルーズのように、散骨したあとも「あの海に会いに行こう」と思える場所を持てること。旅先として何度でも訪れたくなるリゾートの海は、そのための選択肢のひとつになり得ます。分骨をして一部を手元に残しながら、残りを思い出の海へ還す、という組み合わせも考えられます。

国が船を出す時代が、アジアの近くまで来ています。どんなかたちで見送るにしても、「どこに還り、どこで会いに行くのか」を家族で話しておくことが、これからの供養の第一歩になるのではないでしょうか。

関連記事:【海外散骨事情~シンガポール内陸散骨施設編~】

関連記事:【隣国・韓国で「海洋散骨」が合法化されて1年半―「5kmルール」の現場で今起きていること】

関連記事:【散骨セレモニーでよくある失敗例と対策~海洋散骨の注意点と準備~】

参考:
NEA to launch 2-year pilot for sea burial ferry services in 2027(Mothership)
As cremations rise, Singapore to pilot ferry service for scattering ashes at sea from 2027(Malay Mail/AsiaOne)
NEA announces pilot for weekly ash scattering ferry services, to commence in 2027(Must Share News)
Singapur startet Fähr-Service für Seebestattungen zum Festpreis(Ostdeutsche Allgemeine)
Scattering of Cremated Ashes at Sea(香港食物環境衛生署 Green Burial)
「海洋散骨」7年で6倍、年6600件 葬送ニッポンの景色一変(日本経済新聞)
散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)(厚生労働省)
熱海市海洋散骨事業ガイドライン策定(熱海市)
墓じまいと分骨の違いは?選んだ理由は「家族それぞれで供養」43%、「手元供養」34%。2026年10月公表の調査から(LIMO/Yahoo!ニュース)

まとめまとめ

1.シンガポールの国家環境庁(NEA)は2026年10月12日、2027年後半から2年間、海洋散骨のためのフェリーを試験運航すると発表した

2.フェリーはパシル・パンジャン・フェリーターミナルから毎週運航し、申込1件あたり50シンガポールドル。散骨海域や予約方法などの詳細は運航開始前に公表される

3.背景には、火葬率約82%・死亡者数の増加見込みと、内陸散骨施設の利用率が約7%(2022年)から約12%(2025年)に伸びたことなど、散骨ニーズの高まりがある

4.香港では300人以上が乗れる大型フェリーによる無料の海洋散骨が毎週土曜に行われ、散骨後の無料追悼クルーズなど「会いに行く」仕組みも整っている

5.日本の海洋散骨は2025年に6,690件と報じられる一方、担い手は主に民間事業者で、行政はガイドラインや条例でルールを示す立場にある

6.公的な船がなくても、分骨や海外リゾート散骨を組み合わせ、「また会いに行きたくなる海」を家族で選ぶことはできる

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