海洋散骨を考えはじめたとき、「父はもう船に乗れる体ではない」「船酔いが心配で、海の上には出たくない」と悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。海へ還したい気持ちはあっても、見送る側が海に出られるとは限りません。
そんななか、10月20日、北欧デンマークからひとつのニュースが届きました。ドローンが遺灰を海の上まで運び、家族は岸からその様子を見守る――そんな散骨を選ぶ人が、少しずつ増えているというのです。
今回は、デンマークのドローン散骨と、それを支える現地のルールを紹介しながら、「船に乗らずに、海へ見送る」という選択について考えてみます。
デンマークで広がる、ドローンによる海への散骨
北欧のニュースサイト「NordiskPost」は、デンマーク公共放送DRの報道をもとに、ドローンを使った散骨サービスを伝えました。手がけているのは、ユトランド半島北部の都市オールボーに拠点を置く「Air Funeral(エア・フューネラル)」という会社です。
報道によると、同社の散骨は2025年に33件、2026年はすでに35件。年末までには50件ほどになる見込みとされています。料金は場所によって異なり、基本料金は8,495デンマーク・クローネ(約1,140ユーロ)からと紹介されていました。
当日の流れは、とてもシンプルです。
・待ち合わせ場所へ骨壺を持参する
ご遺族が、遺灰を納めた骨壺を約束の海辺へ持っていきます。場所は事前に会社と相談して決めます。
・ドローンが沖へ運び、海の上で散骨する
操縦士が飛行の準備を整え、ドローンが遺灰を海の上まで運んでまきます。家族は船に乗らず、岸からその様子を見送ります。
・来られない人はオンラインで
その場に行けない親族は、オンラインで式を見守ることができるそうです。追加料金で、追悼のための映像を編集してもらうこともできるとされています。
散骨の場所に選ばれるのは、夏を過ごした別荘の近くや、故人が好きだった海岸、ヨットで出かけた海など、故人にとって思い出のある海辺が多いといいます。同社の社長は、DRの取材に対し、より個人的で意味のある別れを求める人が増えていると語っています。自身の両親もそろって海への散骨を望み、しかも場所はそれぞれ別々に指定したそうです。
アジアやドイツ、イギリスなど、デンマークにゆかりのある海外の人からも問い合わせがあるとのこと。「故人の思い出の海に還したい」という願いは、国を越えて共通しているのかもしれませんね。
デンマークの「海への散骨」のルール
では、デンマークではどこにでも遺灰をまけるのでしょうか。実は、デンマークでは散骨のルールが行政の案内ではっきり示されています。公的な行政情報サイト「borger.dk」によると、主なポイントは次のとおりです。
・本人の書面による意思が前提
遺灰を海にまくには、故人が生前に「海に散骨してほしい」と書面で示していることが必要とされています。決まった用紙のほか、普通の紙に名前や日付、署名などを書いたものでもよいとされています。書面がない場合でも、それが故人の意思だったことが明らかであれば、行政の判断で認められることがあります。
・まける場所は「開かれた海」
散骨は海の上か、比較的大きなフィヨルド(氷河が削ってできた細長い入り江)や湾の上で行うこととされています。湖の上や陸地にまくことは認められていません。
・骨壺ごと沈めることはできない
遺灰を納めた骨壺を、そのまま海に沈めることは認められていないとされています。
「本人の意思を書き残しておく」ことが前提になっている点は、印象的です。散骨は、残された家族が決めることでもありますが、まず故人自身の願いとして尊重されるという考え方が、ルールの中に表れているといえるでしょう。
「岸から見送る」という選択が持つ意味

ドローン散骨というと、目新しい技術の話に聞こえるかもしれません。けれども、その中身をよく見ると、「誰が、どこから見送るか」という、とても身近な悩みへのひとつの答えになっています。
海洋散骨では、船に乗って沖へ出るのが一般的です。ただ、高齢のご家族や体調に不安のある方、小さなお子さんがいるご家族にとって、船の上で過ごす時間は負担になることもあります。「見送りたい人ほど、海に出られない」ということも、決して珍しくありません。
岸から見送るかたちなら、足元の安定した浜辺で、みんなで同じ海を眺めながら手を合わせることができます。遠方の親族がオンラインで加われば、離れていても同じ時間を過ごせるでしょう。
そしてもうひとつ、大切なのが「あとから訪ねていける場所」が残ることです。散骨した海を岸から見送ったのなら、次にその浜辺に立ったとき、「ここから見送ったね」と思い出すことができます。デンマークで、別荘の近くやなじみの海岸が選ばれているのも、そうした理由があるのかもしれません。
日本でドローン散骨はできる?―ガイドラインと航空法
では、日本で同じようにドローンで散骨することはできるのでしょうか。結論からいえば、いくつもの確認が必要になり、気軽に行えるものではないと考えたほうがよさそうです。
まず、日本には散骨を直接定めた法律がありません。そのうえで、厚生労働省が公表している「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」では、海洋散骨は海岸から一定の距離以上離れた海域で行うこととされています。具体的な距離は、地理条件や利用状況などをふまえて設定するとされており、自治体によっては独自のガイドラインや条例で距離を示している場合もあります。
次に、ドローンそのもののルールです。国土交通省の資料では、航空法のルールのひとつとして「無人航空機から物を投下しないこと」が挙げられています。ドローンから物を落とす「物件投下」を行うには、安全面の措置をとったうえで国の承認を受ける必要があるとされています。散骨にドローンを使う場合は、こうした航空法上の手続きに加えて、散骨そのもののルールや地域への配慮も求められることになります。
現時点で、日本でドローン散骨がどのように扱われるかを一律に示した公的な基準は、確認できませんでした。ドローンでの散骨を考える場合は、事業者に航空法上の手続きや散骨場所の考え方をよく確かめることが大切です。
本記事は2026年10月時点の公開情報をもとにしたもので、法的な助言ではありません。実際の手続きについては、国土交通省や自治体、専門家にご確認ください。
関連記事:【ドローン散骨で空へ還る~イギリス発の空中散骨~】
どこから、誰と見送るか―家族で選ぶ海への還し方
日本でも、墓じまいのあとの供養先を考える人は増えています。株式会社オースタンスが10月20日に公表したシニア向けのアンケート(回答497人)では、今あるお墓の今後を見直したい人が最も見たい資料として、「墓じまい後の供養先の選び方」が40.8%で最多でした。何を選ぶか、だけでなく、どう見送るかまで含めて知りたい、という方も多いのではないでしょうか。
海へ還す方法は、ひとつではありません。家族そろって船に乗る、岸から見送る、事業者に代行してもらい写真や映像で見届ける。どれが正しいということではなく、家族それぞれの事情に合った見送り方を選べばよいのだと思います。
弊社「海と森のセレモニー」の海外リゾート散骨も、散骨は弊社スタッフによる代行を基本としています。ご家族が現地へ行けない場合でも、写真や動画、散骨証明書で当日の様子をご確認いただけます。もちろん、旅を兼ねて現地を訪れ、立ち会っていただくこともできます。体調や距離を理由に、海へ還すことをあきらめなくてもいい――デンマークの話題は、そのことをあらためて教えてくれるようです。
「どの海に還りたいか」「家族はどこから見送るか」。元気なうちに、そんな話を家族でしておくことが、故人の願いと残された人の気持ちの両方を大切にすることにつながるのではないでしょうか。疑問や不安があれば、まずはお気軽にご相談ください。
関連記事:【海洋散骨で船酔いが心配な方へ~安心して見送るための準備と当日の過ごし方~】
関連記事:【スマホで見守る代理散骨~海外リゾート地で最期を託す~】
関連記事:【遺族が立ち会わない代理散骨~海と森のセレモニーの海外リゾート散骨代行~】
参考:
In Denmark, you can now scatter ashes with a drone(NordiskPost)
Begravelse eller bisættelse(borger.dk)
散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)(厚生労働省)
航空法における無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルールについて(国土交通省)
【シニアと墓じまい】不安の1位は費用。見直し層が知りたいのは墓じまい後の供養先(株式会社オースタンス/PR TIMES)






